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論文

 今日は新しい社会活動を取り上げてみたいと思います。
 小泉内閣の来年度予算の概算要求基準が発表され、構造改革に2兆円、そのうち環境対策やIT予算や都市再生など7分野に8000億円を重点配分することになりました。これもなかなか新機軸ですが、公共投資関係予算を今年よりも10%削減と過去最大の削減幅にしたことも画期的です。緊縮財政で不要な公共事業に投資できないという意思表明をしたわけです。

 この公共投資の主要部分は道路、港湾、空港、公園、上下水道など社会資本といわれるものを整備することです。これは経済採算性の成立しない施設が多いので、国や地方自治体が中心となって建設し運営していますが、この構造が急速に変化しそうな情勢にあります。
 2000年度で社会資本に投下された総額は中央と地方を合計すると55兆円程度でしたが、そのうち、新規の建設は85%で維持費用は15%でした、ところが、2010年の予測では、70兆円程度の総額のうち、30%以上が維持費になるということです。
 50年先を予測しても意味はないかもしれませんが、最悪の場合、公共投資の全額を維持補修に充てなければ社会資本が維持できないという計算もあります。

 そこで登場してきたのがアダプト・プログラム(adopt program)です。アダプトは採用するという意味にも使われますが、養子にするというのが本来の意味です。
 例えば、国道は一般に国土交通省が建設し、地方整備局の国道工事事務所という出先機関が補修や清掃などの維持管理業務をしています。自分で生んだ子供を自分で育てているという仕組みです。河川も一級河川は国、二級河川は都道府県がそれぞれ維持管理をしています。
 その維持管理が大変だということになり、道路沿いの住民が道路を養子にして育て、流域の住民が川を養子にして維持管理の一部を肩代わりしようというのがアダプト・プログラムです。

 この元祖はアメリカのテキサス州運輸局が1985年に始めた「アダプト・ア・ハイウェイ」が最初とされています。州の運輸局がハイウェイでゴミが散乱している箇所を選定して連絡すると、住民が清掃に参加するという仕組みで、現在ではアメリカの48州、カナダの6州に拡大し、参加している人数も数百万人の規模になっています。対象も道路以外にも、公園、海岸、湿地などの清掃にも拡大しています。

 日本でも町内会が公園の草取りをしたり、夏休みにPTAが学校の清掃をしたりという事例は以前からありますが、制度としたところが新しいと思います。例えば、道具は道路管理者や公園管理者が用意し、傷害保険も管理者側の負担にしているとこところが多いようです。
 昨年、3月19日の産経新聞に徳島県が「環境県・徳島宣言」を発表し、その目玉としてアダプト・プログラムを推進するとして注目されました。最近では、日本各地で活発となり、全国50箇所以上で展開されています。

 いくつかの事例を紹介しますと、広島県で行われている「マイロードシステム」は平成12年4月から始まっていますが、県道の道路清掃と緑化作業の二種類があり、企業や団体が登録して100メートル以上の区間を担当します。県は傷害保険の加入と表示板を設置し、市町村がゴミの処分に協力します。すでに、個人、企業、団体など60以上の組織が参加して10キロメートル以上を維持管理しています。
 さらに大規模な活動が「アドプトプログラム吉野川」です。吉野川は四国三郎とも言われる全長194キロメートルの日本でも有数の河川ですが、平成10年7月に吉野川交流推進会議という任意団体が設立され、そこが調整して、企業、団体など70以上が参加して、それぞれ600メートル以上の河川敷を年3回以上清掃しています。参加組織は徳島大学工学部という大学、NTT西日本や阿波銀行などの企業、ライオンズクラブなど様々で、全体で60キロメートル以上を清掃しています。

 この効果は、公共事業として実施する仕事をボランティア活動でおこないますから税金が節約されるということになり、本格的に普及すれば、公共投資が維持管理だけになってしまうという事態の回避に役立ちますが、より重要なことは、住民が足元の自然や施設に関心をもつことだと思います。
 日頃、自分で道路清掃などをしていれば、タバコや空き缶を自動車の窓から捨てるというようなことはしないし、税金の使途にも関心をもつようになり、主権在民が推進されていくと思います。

 私の個人的経験ですが、時々、カヌーに出かける長崎県伊王島に瀬戸といわれる幅20メートルもない海峡があります。橋の上から覗いてみると、澄んだ水で、熱帯魚やアオリイカまで泳いでいるのが見えるのですが、その底にゴムタイヤや茶碗のカケラや空き缶がたくさん沈んでいました。
 そこで町長さんに住民参加で大潮のときに清掃したらどうですかと進言したら、実行され、トラック3台分のゴミが回収されたそうです。毎年1回実行しておられますが、もはやゴミを捨てる人はいないようになり、いつ出かけてもきれいなままです。





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