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論文

 現代社会では建物への出入、銀行口座の利用、コンピュータやスマートフォンへのアクセス、飛行機の搭乗など、日常の活動で、本人かどうかを確認するための個人認証が重要な技術になっています。
 カードは盗まれれば他人に使われますし、暗証番号も盗まれる可能性があります。そこで利用されているのが人間一人一人に固有の特徴を使用するという生体認証技術です。
 古くから使われてきたのは指紋ですが、それ以外に手のひらの表面の模様である「掌紋」、指先の内側の「静脈」の模様、眼球の中の「虹彩」の模様などが使われるようになっていますが、最近、注目されているのが個人の「顔」そのものを特定の個人を識別するために使う「顔認証」技術です。
 話題になったのは、人気のあるコンサートの切符が高額で転売されるのを防ぐため、切符を購入するときに顔写真を登録しておき、当日、会場に本人が到着したときに顔で本人かどうかを装置で自動判断し、切符を発行するシステムで、2014年に「ももいろクローバーZ」のコンサートで使用され、それ以外のコンサートでも使われはじめています。
 昨年10月からは羽田空港で外国から帰国した日本人の審査に顔認証が使用されていますし、今年中には成田空港、関西空空、中部国際空港などでも順次利用される計画です。
 さらに2020年の東京五輪大会では運営に関係する職員、報道関係者、警備員、そして選手とコーチなどが合計で30万人から40万人になるので、それらの人々の施設での入場や退場に顔認証技術を使う予定です。

 昨日発表されたサラリーマン川柳の第3位は「ノーメイク会社入れぬ顔認証」という句でしたが、化粧しても「メイクアップ(MAKEAPP)」というソフトウェアは素顔を推定してしまうので大丈夫そうですが、これも万全かどうか分かりません。
 アップルのアイフォンは指紋で本人を認証していましたが、最新の「アイフォンX(テン)」では顔認証が使われています。
 ニューヨークで生活しているアメリカ人が「アイフォンX」を、これにアクセスするには本人の顔でしかできないと言って子供に渡したのですが、10歳の子供がアイフフォンを覗いたらあっさりロックが解除されてしまったという事件がありました。
 親子で顔が似ていると破られてしまう可能性があるということです。

 しかし、より深刻な問題があります。
 顔認証のためには事前に個人の顔写真を登録して、その写真と本物とを比較して判断するのですが、そのためには膨大な顔写真のデータベースが構築されている必要があります。
 アメリカでは飛行場の国際線の搭乗ゲートでは、国土安全保障省が出国する人の顔を撮影して登録していますが、その顔データが他の目的で使われるかどうか不明だということです。
 ジョージタウン大学のプライバシー・アンド・テクノロジーセンターの研究者は、空港での出国の時の顔写真だけではなく、パスポートや免許証を取得する時に撮影された顔写真が巨大なデータベースとして蓄積されており、それらの人数はアメリカの成人の半分にまで到達しており、それらに登録されている80%の人は犯罪歴がないにもかかわらず、FBI(連邦捜査局)が自由にアクセスして捜査に利用していることを警告しています。

 最近、さらに深刻な「フェイシャル・プロファイリング」という技術が登場してきました。
 「フェイシャル」は「顔の」という意味で、「プロファイリング」は「性格や特徴の推理」という意味ですが、顔写真から人間の職業や性格を推定する技術という意味です。
 「目は口ほどにものを言い」という言葉がありますが、「顔は口ほどにものを言い」というわけです。
 外国の情報機関は各国の首脳の映像で性格や精神状態や健康状態を判断しています。
 昨年の4月6日から7日にかけて、フロリダでトランプ大統領と習近平国家主席が会談したとき、夕食の最中にトランプ大統領が習主席に突然「国家主席にお伝えしたいことがあります。今、シリアに向けて59発のクルージングミサイルを発射しました」と伝えたところ、習主席はとっさに返事ができなかったという出来事がありました。
 これはアメリカの情報機関が過去の映像から習主席の性格を「慎重な性格で準備を怠らないので失敗は少ないが、予想を超えるサプライズには弱い」と分析し、それをトランプ大統領に伝えてあったので、仕組んだシナリオだったのです。

 さらに進んだ顔分析技術が開発されています。
 2014年にイスラエルで設立された「フェイセプション」というベンチャー企業は顔写真から人間の職業を推定するサービスを提供しています。
 この会社のホームページによると、50人が参加したポーカーのゲーム大会に4人のプロがいたのですが、顔の分析だけから、そのうち3人を当てたそうです。
 また2015年11月に6箇所でテロ事件が発生したパリ同時多発テロ事件について、多数の写真の中から11名の犯人のうち9名を識別したそうです。
 さらに顔写真から「高知能の人間」「研究者」「プロのポーカープレーヤー」「テロリスト」「ロリコン」なども識別できると宣伝しています。
 パスポートや免許証を取得し、国際空港で簡単に入国や出国ができるなどの便利さの代償として、我々はプライバシーを渡しているということになります。

 これらはビッグデータ、人工知能を駆使した分析の結果ですが、フェイスブックやインスタグラムなどに自慢して写真を掲載していると、その顔写真がデータベースに蓄積されて、個人の内面まで見透かされる時代が始まっていることを知っておく必要があると思います。





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