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論文

 10日程前から神戸港のコンテナヤードで「ヒアリ」という人間にとって危険な昆虫が発見されたと騒ぎになっています。
 英語でも「ファイア・アント」と言われるように、このアリに噛みつかれると火傷をした時のような激しい痛みに襲われますし、アナフィラキシーショックを起こして、最悪の場合は死ぬこともあります。
 実際、アメリカでは毎年1400万人以上が刺されて、そのうち100人以上がショックで死んでいるそうです。
 南米大陸原産ですが、輸出される木材などと一緒に移動して、現在では北米大陸、中国南部、台湾、フィリピン、オーストラリアなどで繁殖しており、ついに中国経由で日本にも到達したというわけです。
 一旦侵入してしまった生物を根絶することは大変困難で、毒グモの一種であるセアカゴケグモが木材にくっついて到来し、1995年に大阪で発見されましたが、根絶することはできず、現在では41都道府県に広がっています。
 今回のヒアリについて環境省は駆除したと発表していますが、確実とは言えません。

 国際自然保護連合が、このように本来の生息地以外の場所に侵入し、自然環境や人間社会に影響をもたらす生物を100選んで「侵略的外来種ワースト100」として警告していますが、ヒアリはそれにも入っていますし、日本では特定外来生物に指定されています。
 特定外来生物とは、日本にもともと生育している生物を捕食したり、生態系に害を及ぼす可能性がある生物で、動物で92種、植物で13種が指定されています。
 その中では、アライグマ、マングースなどの哺乳類、カミツキガメ、グリーンアノールなどの爬虫類、ブルーギル、オオクチバスなどの魚類などが有名です。

 このような侵略的生物は、どのようにして生息域を拡大してきたかを世界の「侵略的外来種ワースト100」について調べてみると、40近くは人間が意図的に移動させた動植物です。
 例えば、アカギツネ、アカシカ、アナウサギなどはヨーロッパが原産地ですが、狩猟用にオーストラリアなどイギリスの植民地に移入され、天敵が居なかったため爆発的に増えてしまいました。
 害虫や害獣を駆除するために移入された生物が、逆に増えすぎたという例も数多くあります。
 奄美大島でアマミノクロウサギを絶滅の危機に追いやっているマングースはハブを退治するために移入されましたが増えすぎていますし、熱帯地方で繁殖しているオオヒキガエルはサトウキビの害虫駆除のために北アメリカから移入されましたが、固有の昆虫を食い尽くしてしまうほど繁殖しています。
 人間が毛皮を利用する目的で飼育していた動物が逃げ出して繁殖して問題になっている南米原産のヌートリア、食用の目的で飼育していたヤギ、ウシガエル、ティラピアなど、増えすぎて侵略的外来種になってしまった生物も居ます。
 今回のヒアリのように、意図的に移入されたのではなく、木材などの輸入物資にくっついて来たり、タンカーのバラスト水に混ざって侵入してきた生物も30近く存在します。

 このような侵略的外来種がもたらす甚大な被害を証明しているのがニュージーランドです。
 ニュージーランドは1億年近く前にオーストラリア大陸から分離されて島になったのですが、その時期にはオーストラリア大陸に哺乳類が発生していなかったため、ほぼ1億年間、2種類のコウモリ以外、哺乳類は存在しませんでした。
 その結果、ニュージーランドの鳥の多くは襲われる危険がないため、飛ばない鳥になっていました。
 ところが170年ほど前からイギリス人が移民して来るようになり、一緒にイヌ、ネコ、キツネ、イタチなどを連れてきました。
 それらの動物と人間が飛ばない鳥を捕獲していったため、90種類近く生息していたニュージーランド固有の鳥のうち36種類が絶滅してしまい、残った鳥も数百羽しか生存していないという状態になってしまいました。
 侵略的外来種は環境にとって脅威なのです。

 しかし、地球には、これらのワースト100が及びもつかない最強の侵略的生物が存在します。人間です。
 1492年にコロンブスがカリブ海の島に到着して以後、ヨーロッパから多数の人々が北米大陸に到達し、先住民族に出会いますが、コロンブスの一隊だけでも5万人以上の先住民族を虐殺していますし、先住民族には免疫のなかった天然痘、チフス、インフルエンザなどを持ち込み、数千万人が感染して死んでいると推定されています。
 それに続いて1520年代に中米に進出したスペイン人のエルナン・コルテスはアステカ帝国を滅亡させ、1530年代に南米大陸に進出したスペイン人のフランシスコ・ピサロはインカ帝国を滅亡させています。
 1992年から2002年までスペインで通用していた1000ペセタの紙幣の表側はコルテスの肖像、裏側はピサロの肖像が描かれていましたが、メキシコやペルーの人々からすれば、面白くない紙幣でした。
 さらに15世紀から18世紀までの3世紀間は北米大陸とヨーロッパ大陸にアフリカ大陸の原住民が奴隷として連れ去られていますが、その人数は1000万人から1500万人と推定され、しかも10%以上が大西洋上を輸送される船上で死亡していたという残虐なことをしていました。
 それほど組織的ではありませんが、オーストラリアに送り込まれたイギリス人も先住民族のアボリジニを大量に殺戮しています。
 その手法はアボリジニの集落の水飲み場に毒を入れたり、狩猟の対象として銃撃したり、崖から突き落としたりしていました。
 これは遠い過去のことではなく、20世紀の初期まで続いていたことです。
 その結果、オーストラリア南部のタスマニア島のアボリジニは絶滅し、オーストラリア大陸に300万人は生活していたアボリジニも30万人程度に減ってしまっています。
 そういうオーストラリア人が日本の捕鯨を残虐だと言っていることを、私たちは知っておく必要があります。

 自然環境は固定したものではなく、絶えず変化していくものですが、突然、襲来する侵略的外来種は短期で環境を激変させます。
 それは一般に多様な環境を単純な環境にし、変化への対応する力を弱めることになります。外来種から環境を守ることは重要なのです。





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