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冒険
(写真撮影:新谷暁生/新井場隆雄/月尾嘉男)




  これまで幾多の船舶と船員を飲込んできた南米大陸の南端に位置するケープホーン周辺の荒海は世界でも有名な魔境である。その危険な海域を人力だけが動力というカヤックで漕破しようというのは、これまで世界の数組しか成功していない異常な冒険である。しかも、せいぜい10年強のカヤックの経験、そして還暦という年齢を加味すると、それは異常を超越した狂気の沙汰であるかもしれない。

  その狂気へと駆立てた契機は一枚の写真との遭遇であった。8年程前の冬季、この海域を前年にカヤックで漕破した経験のある新谷暁生から手渡された写真には、翻弄といってもいい状態で巨大な波浪を乗越えていくカヤックが撮影されていた。悪女に魅入られる男性のように、その光景には抵抗しがたい魔力があり、いつかはこの魔境に侵入していきたいという夢想が芽生えた。

  そこから8年、芽生えた夢想を現実にすべく準備をし、様々な個人や組織の皆様の支援によって、2004年1月10日、同伴してくれる3人の友人とともに成田国際空港を出発し、1月25日朝、世界で人間が定住しているもっとも南端の僻村プエルト・ウィリアムスを出航した。そして20日間の荒海での苦闘の結果、2月13日午前10時10分過ぎ、晴渡った青空を背景に屹立するケープホーンの先端を周回することに成功した。

  それが物好きな人間の奇矯な行動以上の意味があるかどうかは問題ではないし、自分の人生にとって意味があることであったかも不明であるが、還暦という肉体の区切りの時期に合致して精神の区切りをすることになったことだけは確実である。以下に掲載する文章と写真から、それぞれに何事かを読取っていただければ、狂気にも役立つことがあるということになる。






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