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論文

 トランプ大統領は就任から3日後の23日に、環太平洋経済連携協定(TPP)から永久に離脱するという大統領令に著名しました。
 これは選挙期間から公言していたことですから突然ということではありませんが、TPPは最初に4カ国で議論が始まった2005年から12カ国が2016年2月に署名するまで足掛け12年、日本が参加を表明した2010年からでも7年という年月を費やして妥結した協定でしたが、中心であったアメリカがあっさり離脱するという結果になってしまいました。
 アメリカの大統領令というのは議会の承認を必要とせず、連邦政府や軍に発令して政策を実行することのできる権限で、議会が反対する法律を作るか、最高裁判所が憲法違反であるとの判決を出せば実施されない場合もありますが、現状ではトランプ大統領の在任中はほぼ実現しなくなりました。
 安倍総理大臣はトランプ大統領と話し合うと言っていますが、それによって状況が変化する可能性は限りなく小さいと思います。

 TPPというと、日本では農業産品を聖域として守るということが議論の中心でしたが、それ以外にも環境保護、食品衛生、薬価の上限、知的財産、公益事業など広範な分野を対象にして貿易を促進にする仕組が検討されたものです。
 実は60年前の1956年の2日後の1月28日に、日本で「万国著作権条約」が公布されたことを記念してコピーライターの日となっていますが、それに因んで、今日はTPPと著作権の問題を考えてみたいと思います。
 著作権と似た制度が特許権ですが、簡単に言うと、特許権がモノについて一定期間の独占権を認めるのに対し、著作権は情報について独占権を認める制度です。
 著作権は英語で「コピーライト」と言われるように「コピーする」すなわち複製する権利ですから、15世紀に印刷術が発明されてから登場し、1545年にヴェネチアで最初の制度ができています。
 それを国際的に通用する制度にしたのが1886年に成立したベルヌ条約(文学的・美術的著作物に関するベルヌ条約)ですが、いつものようにアメリカは自国の慣行と違うという理由で参加せず、そこでアメリカが参加できるように1952年にできたのが万国著作権条約という複雑な経緯になっています。

 特許権も著作権も本来は権利者の権利を保護することよりも、技術や情報が社会で共有されることにより全体は発展することを目指した制度です。
 しかし、今回のトランプ大統領の方針が象徴するように、アメリカは自国の利益優先で制度を制定している国で、一例がメートル法です。
 世界各国がメートル法を導入するという「メートル条約」は1875年に締結され、日本も時間はかかりましたが、尺貫法を廃止して1959年に完全にメートル法に移行しました。
 ところが、世界でアメリカとリベリアとミャンマーだけがメートル法を採用せず、アメリカは現在もヤードポンド法を使用しています。

 著作権は各国が制定する制度ですから、アメリカが独自に延長していても問題はありませんが、なかなか強引です。
 アメリカでは1790年に初めて著作権法が成立し、制作されてから14年で、14年が経過したときに著作権者が生存していれば14年の追加が可能で最長28年でした。
 1831年には28年+14年で42年、1909年には28年+28年で56年に延長されました。
 ところがこの制度では1928年に映画として公開されたミッキーマウスの著作権が1984(1928+56)年で切れることになるため、ウォルト・ディズニー社は政界工作をし、個人の場合は死後70年、法人の場合は発表後95年か制作後120年になり、ミッキーマウスは2023年(=1928+95)まで寿命が伸びました。
 ミッキーマウスの死期は1984年から2023年まで40年も延びたことになり、アメリカの著作権法は「ミッキーマウス延命法」と言われていますし、   2023年が近付くと、さらに延長されるという噂もあるほどです。

 日本は現行の著作権法では映画のみ公表後70年ですが、音楽や著作は著作者の死後50年か公表後50年でした。
 しかし、TPPが成立すれば、すべて一律70年になる予定でしたが、これは頓挫したことになります。

 確かに苦労して創作した人々や遺族が、より長期に権利を確保したいという気持も理解できますが、そもそも特許権も著作権も技術や情報を社会が共有することによって発展するという趣旨で制定されたことからすれば逆行しています。
 そこで登場してきたのが「パブリック・ドメイン」という考え方です。
 日本で有名な例は「青空文庫」です。
 日本での書籍の著作権の期限である死後50年を経過した作品と、著者が公開を了解した小説などをインターネットで無料公開している電子図書館で、1997年に開始され、現在、1万4000冊近い作品が公開されています。
 世界規模で行なっているのは、インターネットの登場を見越してすでに1971年から始まった「プロジェクト・グーテンベルグ」です。
 英語の作品が中心ですが、「アメリカ独立宣言」を第一号として、現在、3万冊以上が閲覧可能になっています。
 さらに大規模な無料の電子図書館はグーグルが運営している「グーグル・ブックス」で、すでに1200万冊の情報がデジタル変換されていますが、現状では著作権が無くなった作品は全文表示で100万冊以上、著作権が存在している作品は一部のみ公開され、書籍販売サイトへリンクされる仕組ですが、これも100万冊以上になっています。

 このような傾向を「コピーライト」に対して「コピーレフト」、すなわち著作権を放棄したという表現をしますが、インターネット時代になり、このような活動が動きはじめています。
 そのような中で、著作権の保護期間が大幅に延長されると、これまで公開されていた作品が公開できなくなる場合も登場してきます。
 個人や企業の利益を重視するか、社会全体の発展を重視するかの選択になりますが、アメリカ・ファーストのような政策は社会全体の発展を阻害するのではないかと思います。





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