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論文

 先週19日にモロッコのマラケシュで開かれていた「COP22(第22回気候変動枠組条約締約国会議)」が閉幕し、昨年12月の「COP21」で決まった地球温暖化対策の「パリ協定」を2020年から実施することが合意されました。
 これは1997年に京都で開かれた「COP3」で決められた京都議定書に代わる国際協定で、地球温暖化を防ぐために温室効果ガスの排出を削減する仕組を決めたものです。
 京都議定書では発展途上国に削減義務が課せられず、当時の排出量が世界2位の中国や3位のインドが対象外になり、しかも途中で、1位のアメリカ、8位のカナダが離脱してしまい、実効性がありませんでした。

 しかし今回はすべての国に削減義務が課せられ、離脱も協定が発効してから4年間はできないという厳しいものになりました。
 その背景にあるのは地球温暖化は、トランプ次期大統領が選挙期間中に発言していた「地球温暖化は中国のでっちあげ」という状態ではなく、本当に実現すると予測されてきたからです。
 もし、何の対策も実施しなければ、産業革命が始まった時期から4℃から6℃は気温が上昇する可能性があり、これを2℃以内にする、現状からは1℃以内にしようという目標が設定されました。

 これが如何に困難な目標かというと、現状のまま進むと、世界全体の二酸化炭素排出量が2050年には950億トンになるのを5分の1の190億トンに、2100年には1300億トンになるのを30分の1の40億トンに減らす必要があるということです。
 実質ゼロに近い量にするので「ゼロエミッション」と言われているほどです。

 これを達成するためにはエネルギー源を自然エネルギーに転換する、輸送機器や家庭電化製品を効率の高い装置に替えていく、空中の二酸化炭素を地中に埋めるなど、様々な対策を総動員する必要がありますが、もう一つ重要な手段は現在の生活様式を変えることです。

 このような意見は、これまでも数多くありますが、2012年6月に科学雑誌『ネイチャー』にアメリカの学者21人が発表した、世界が現在の生活習慣を変えなければ、2040年から2100年までに、生物絶滅の加速、異常気象の増加など地球環境が壊滅状態になるという論文が世界に大きな影響を与えました。
 その論文を知ったフランスの女優かつ映画監督のメラニー・ロランが、妊娠中でもあったので、生まれてくる子供の時代を心配し、現在の大半とは違う生活を実現している社会を探ってみようと、世界各地を回って『トゥモロウ:パーマネントライフを探して』という映画を製作しました。
 昨年12月にフランスで公開されたところ、110万人が鑑賞するほどの反響がありました。
 1年遅れですが、12月から日本の主要都市でも上映されることになりましたので、その内容を簡単に紹介したいと思います。

 新しい生活様式について、農業、エネルギー、経済、政治体制、教育の5分野を採り上げ、世界各地の事例が紹介されています。
 農業ではイギリスのマンチェスター近郊にある人口1万4000人のトッドモーデンという町の「みんなの菜園」運動が紹介されています。
 町の中央の花壇や公共の土地に何百種類もの果樹や野菜を植え、それを地域の食料にすることで、現在、80%以上が地元の食料で、2年後には100%自給にするという地産地消活動です。
 この方法は世界の数10カ国の数百の町に広がっているそうです。

 エネルギーではデンマークの首都コペンハーゲンで、100基の風力発電機、サッカー場40面分の太陽光発電、地熱エネルギー、農業廃棄物によるバイオマス発電、家庭ゴミのバイオガス転換など自然エネルギー施設を導入し、2025年までに二酸化炭素排出をゼロにする計画が紹介されています。

 経済では各地の地域通貨の成功例が紹介されます。
 イギリスのトットネスやブリストル、スイスのバーゼルなどが紹介されていますが、ブリストルでは市内の600店の商店やレストランで地域通貨が利用でき、地域の経済活動を支えるとともに、外部からモノを輸送する量が減ったため、物流による二酸化炭素排出削減にも貢献しています。

 政治体制については、アイスランドの首都レイキャビク、インドのコタムバカムで実施されている市民参加の直接民主主義が紹介されます。
 コタムバカムの村長は科学者ですが、村のすべての家庭から平等に代表を選出し、それらの代表が希望を提出すると、村長が実行計画を作成し、それが承認されると村民が実施するという制度を作り上げています。
 これにより、5年間で、廃棄物の削減、下水道の建設、子供の就学率向上、太陽光発電の普及などが進んでいます。
 さらに各地の村長が研修する学校を設立、10年間で900人以上の村長が訓練を受け、新しい行政を普及させています。

 教育はフィンランドの40年間に及ぶ教育改革が紹介されます。
 その効果は3年ごとにOECDが実施する中学生の国際学習到達度調査(PISA)で、フィンランドが 何度も1位になっていることで証明されています。

 このような、地産地消、自然エネルギー、地域通貨、市民参加型民主主義はこれまでも社会に存在してきたものです。
 日本でも自然エネルギーは流行していますし、地域通貨も600以上の地域で発行されてきましたが、それが地域の生活形態を変えるチカラにまではなっていないのが現状です。
 しかし、世界では社会を変えはじめている例が数多く存在します。ぜひ足元から地域を変える活動を始めるためにも映画を御覧いただければと思います。
 東京での上映は12月23日から「渋谷シアター・イメージフォーラム」で行なわれ、それ以外にも全国7カ所の都市で上映されます。





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