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論文

 2日後の4月2日は「図書館開設記念日」になっています。
 明治5(1872)年4月2日、江戸時代に徳川幕府直轄の教育研究機関「学問所」が置かれていた神田湯島の昌平坂に、だれでも無料で利用できる近代的図書館「書籍館(しょじゃくかん)」が設置されたことを記念したものです。
 これは1860年代にアメリカやヨーロッパを訪問した福沢諭吉が出版した『西洋事情』(1866)で欧米諸国の図書館制度を紹介したことを契機にしていますが、明治維新の騒乱の時期で、すぐには実現せず、新政府になって文部省が設立したという経緯です。

 現在分かっている世界最初の図書館は紀元前7世紀のアッシリアのアッシュルバニパル王が首都ニネヴェに作った「アッシュルバニパル王の図書館」とされていますが、さらに大規模な図書館は紀元前4世紀のマケドニアのアレキサンダー大王がナイル川河口の都市アレキサンドリアに建設した図書館です。
 それ以後、図書館は世界各地に増えていきますが、目的は国家が収集する情報を蓄積しておくことでした。

 その結果、蔵書数が図書館の地位を象徴するようになります。
 2012年の統計ですが、蔵書数で順位をつけると、1位がアメリカ議会図書館(3100万冊)、2位が中国国家図書館(2800万冊)、3位がドイツ国立図書館(2700万冊)で、日本の国立国会図書館は1000万冊で7位になっています。
 いずれも国内で出版された書籍は出版した者が図書館に納本する義務を負う納本制度を整備し、自動的に集まってくる仕組になっています。
 この歴史も古く、先程紹介したアレキサンドリア図書館は船が港に入港すると、所持している本や地図を没収し、その写本を作ってから返却するという制度を実施していました。
 本物を図書館に収め、写本を返却したという説もありますが、当時の可能な限りの情報を収集していました。

 現在の納本制度に近いものは16世紀のフランスで始まりましたが、その当時の出版点数では問題がありませんでした。
 しかし、現在のように日本だけでも書籍が年間8万2500点、雑誌が4000種も発行されると、保管する場所が問題になります。
 そこで各国とも、増設したり新館を建設したりして対応し、イギリスの大英図書館はカール・マルクスが30年間、通い詰めて『資本論』を書いたという逸話のある円形の建物が手狭になったため、1982年にロンドン郊外の新館に移転していますし、アメリカ議会図書館は本館に隣接して2つの別館が建設され、地下で往来できるようになっています。
 日本も1961年に建設された建物が手狭になったので、1200万冊が収蔵可能な地下8階、地上4階の新館が1986年に開館しましたが、これもいずれ限界になると予想され、2002年に関西文化学術研究都市に巨大な関西館が建設されています。

 このように、紙媒体に記録された書物は貯蔵に空間を必要とする問題があります。
 そこで最近では電子媒体が注目されていますが、これは別の大問題を引き起こしています。デジタル情報が爆発的に増加していることです。
 2007年にアメリカのコンサルタントが、2008年には人間が1年間に作り出すデジタル情報がエクサバイトという単位になると予言しました。
 1の後に0が18個並ぶ数で、普通の本に換算すると1兆冊になります。
 これは予言通りになったのですが、以後、2年ごとに2倍になる勢いで増し、昨年は8の後に0が21個並ぶゼッタという単位になってしまいました。
 これは大英図書館の所蔵している本の情報の64万倍以上で、もし、1人の人間がすべて読もうとすると、160兆年という地球の歴史の3万5000倍の時間がかかるという量ですし、5年後にはさらに5倍以上になると予測されています。
 大英図書館は過去170年間にイギリスで出版された書籍を集めていますが、それに匹敵する情報を現在は0・05秒で作り出していることになります。

 このような電子時代への対応は各国で始まっており、アメリカの議会図書館は書誌情報をインターネットで検索するサービス、議会活動に関する資料をインターネットで送信するサービス、所蔵する歴史的な写真や動画をユーチューブやアイチューンで閲覧できるようなサービスも始めています。
 日本でも国立国会図書館が所蔵する一般には公開していない歴史的文書などをデジタル情報にして、インターネットで入手できるサービスを始めています。

 何となく量に圧倒されて意欲喪失の気分になられると思いますので、気分転換になる話を紹介したいと思います。
 世界各地で広がりつつあるマイクロライブラリーという活動です。
 一般の図書館が巨大な方向へ突進している傾向と反対の極小の図書館を普及させようと言う活動です。
 自分の家の前、病院、喫茶店など、様々な場所に鳥小屋のような箱や小さな書棚を置いて、そこに不要な本を自由に置いていったり、そこから自由に借りていったりできる施設です。
 欲しい本を持ち帰ってもいいマイクロライブラリーもあります。
 私も不要な本を北海道の一日の乗降客が数十人しかない鉄道駅のマイクロライブラリーに送ったり、自分の住んでいるマンションの公共スペースのマイクロライブラリーに寄贈していますが、このような場所は日本では数百、世界では数万に増えていると推定されています。
 以前、この番組で紹介させていただきましたが、不要になった本を苦労して古書店に運んで売っても1冊10円にもならず、輸送賃さえ出ないのが現実です。
 そうであれば、読みたい人に上手く本が届くマイクロライブラリーに寄贈する社会を創れば、本も生きるのではないかと思います。





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