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論文

 私は一年間だけ総務省の役人をしたことがありますが、印象に残っていることは、官庁は日本最大のシンクタンクといわれることもあるように、膨大な情報を蓄積しているということでした。
 ところが問題は、内部の人間は必要な情報を簡単に手に入れることができますが、外部の人間になると壁があり機密情報でなくても簡単には入手できないということでした。
 しかし、国勢調査の結果にしても、商業統計にしても、国民や企業の協力で収集された情報だから、国家機密で公開できない内容や個人情報の保護の観点から公開出来ない情報以外は公開して、だれでも利用できるようにすべきだという意見が出てきました。
 しかも、情報が紙に印刷されている時代には探し出すのにも手間がかかるので、公開されなくても仕方がないという見解もありましたが、電子媒体の時代になり、インターネットの時代にもなってきたので、積極的に外部からも利用できるようにするべきだという動きが世界の潮流になってきました。
 それが「オープンデータ」という活動です。
 実は1年半ほど前にも御紹介したのですが、急速に拡大しているので、実例を紹介しながら、どのような状況になっているかを知っていただければと思います。

 最初に口火を切ったのはアメリカで2009年のことですが、その時点では76の資料を公開しただけでした。
 ところが現在では13万種類以上の情報を公開しており、「www,data.com」というウェブサイトから入手することができます。
 どのようなことが可能かの数例を御紹介しますと、「スポットクライム」という情報があります。
 翻訳すれば「特定の地点の犯罪」という意味ですが、アクセスして、例えば「ニューヨークのロワー・マンハッタン」というように場所を入力し、何月何日から何月何日までという期間を入力すると、詳細な地図の上に「放火/強姦/強盗/窃盗/狙撃」などが発生した地点が表示されます。
 安全に旅行するためには便利ですが、見るためにはEメールなどの情報を入力する必要があります。

 オープンデータの目的の一つは、公開された情報を使って新しいビジネスが発生することですが、その例として「ホームスナップ」というサービスがあります。
 町の中を歩いていて気に入った家を見つけたら、スマートフォンで写真を撮影すると、その家の推定値段が画面に表示されます。
 これは撮影したスマートフォンの位置をGPSで把握して建物を特定すると同時に、データベースから通学することになる学校の情報や、公園があるかなどの環境の情報を総合して推定しているわけですが、全米で9000万軒以上の住宅の情報が提供されます。

 4月16日に環境への負荷によって建物を格付する「グリーンビル」という制度を紹介しました。
 格付の高い建物にオフィスを構えるのが会社の地位を示すという話です。
 カナダのオープンデータには「グリーンビルディング・マップ」というサイトがあり、カナダの地図から自分がオフィスを構えたい都市を拡大していくと,建物の省エネ水準を4段階で評価する「LEED」という基準で分類された建物の印が登場します。
 この地図を参考にしてオフィスビルを選べば良いということになります。

 オープンデータの重要な役割には行政の活動を監視することが含まれます。
 そのためにイギリスで作られたのが「ホエア・ダズ・マイ・マネー・ゴー?」、翻訳すれば「私の税金はどこに行ったの?」というサイトです。
 自分が税金を収めている自治体を選び、年収や家族構成を入力すると、税金が何に使われているかが表示される仕組です。
 日本は出遅れたこともあり、2012年のオープンデータの状況の評価では、アメリカ(1位)やイギリス(4位)にはもちろんですが、韓国(15位)や中国(18位)にも遅れて19位となっていますが、この税金の行方については日本でも進んだ事例があります。
 一つはイギリスのサイトと同じ様式で公表しているもので、現状では168の自治体しか公開していません(spending.jp)が、別途、全国の1800の市区町村について情報が得られるサイト(spending.souken.or.jp)があります。
 これは一般財団法人島根総合研究所が16種類ほどのオープンデータを使用して作成したもので、市区町村を選び、7階級の年齢、配偶者の有無、扶養家族の人数、13段階の所得を選び、さらに市区町村税、都道府県税、国税、税金の合計、税金と社会保険を合計した金額という5種類について、何に使われているかが1日あたり、1月あたり、1年あたりで表示されます。

 数例を紹介してみたいと思います。
 東京都港区在住で49歳以下、所得なしの配偶者、扶養家族2人、年収600万円を選ぶと、特別区税は10万円、都税は7万円、国税は30万円、税金の合計は48万円で社会保険も追加すると年収の23・1%に相当する138万円を納入していることが分かります。
 歳出については34%が健康福祉、借入金返済が15%、教育文化が9%などと続き、外交にも0.5%の228万円が使われていることが分かります。
 同じ条件で独身の場合を計算すると税金の合計は73万円、社会保険を追加すると年収の27.2%の163万円に増加することになります。
 もちろん、概算ですから細かいところまで正確ではありませんが、このような形で自分の税金や生活している地域の行政を知ると、選挙の投票のときも真剣になるのではないかと思います。
 オープンデータはビッグデータの手法を駆使すると個人情報を推定することも可能になるという危険もありますが、社会の実体を知ることによって参加の意識を高めることにもなる重要な活動だと思います。





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