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論文

 今日は「納豆の日」です。
 理由は単純で7月(なながつ)10日(とうか)の語呂合わせですが、もともとは関西で納豆の消費を拡大しようと、1981年に関西納豆工業組合が制定した記念日でした。
 しかし、1992年に全国納豆協同組合連合会が改めて制定し、全国規模の記念日になったものです。
 納豆が文書に登場するのは平安時代の文人藤原明衡(あきひら)の書いた『新猿楽記(しんさるごうき)』に好きな食べ物として「塩辛納豆」が書かれているのが最初のようですが、実際には縄文時代後期に大陸から大豆が伝来した時期から存在していたのではないかと推定されています。
 中国の「タチオ」、インドの「バーリュ」、ネパールの「キネマ」など、納豆に似た食品もありますが、日本の伝統食品と言って良いと思います。

 納豆は植物繊維やビタミンKを豊富に含む健康食品とされていますし、江戸時代に書かれた『本朝食鑑(ほんちょうしょっかん)』という辞典にも「腹中をととのえて食を進め、毒を解す」と書かれているように、整腸作用や抗菌作用があることが古くから知られていました。
 そのため、抗生物質の発見されていない時代には、赤痢やチフスなどの薬として用いられたこともあり、O157、病原性大腸菌、サルモネラ菌などへの抗菌作用も立証されています。
 また、血栓を溶かす酵素が含まれているため、納豆から単離したナットウキナーゼが血栓を溶かす効果も観察されています。
 さらに米の御飯だけでなく、納豆を一緒に食べると血糖値を抑制する効果もあると推定されています。
 そのような様々な健康への効果があることから納豆は「特定保健用食品」、通称「とくほ」としても認可されています。

 このように食品として優れた納豆も、東北から関東にかけての東日本では消費が多いのですが、近畿から中国地方にかけての西日本では消費量が少ないと言われています。
 実際、昨年の総務省統計局の「家計調査報告」による世帯あたり年間の納豆の購入額を調べると、東北地方の5387円、関東地方の3902円、北陸地方の4018円に比べると、四国は2294円、中国地方は2488円、近畿地方は2582円と、明確に東高西低になっています。
 理由は、瀬戸内海に面した四国、中国、近畿では魚が豊富に手に入るので、納豆で蛋白質を摂取する必要がなく、あまり生産されなかった影響だと説明されますが、もう一つの理由は臭いからではないかと思います。

 臭いを測る装置は多数ありますが、その一つのアラバスターという単位で測定する装置で様々な食品の臭いの強さを測った結果があります。
 納豆は452アラバスターですが、どの程度かを実感していただくために比較すると、学生の野球部の選手の練習後の靴下を測定したところ、420アラバスターだったそうですから、なんとなく想像できるのではないかと思います。
 しかし、臭い食品の世界では、納豆は平幕で、伊豆諸島の特産である「くさやの干物」は焼く前は447アラバスターで納豆と同程度ですが、焼くと2・8倍の1267アラバスターと一気に増加して前頭筆頭になります。

 その上はカナダのイヌイットが愛好する「キビヤック」が3倍の1370アラバスターで小結です。これはカナダの先住民族イヌイットやグリーンランドの先住民族カラーリットの好物で、ウミスズメの一種であるアパリアスという海鳥を羽根のついたまま内蔵と肉を取り除いたアザラシの腹の中に数百羽も詰め、数年間、地中に埋めてから食べるという、聞くだけで卒倒しそうな食べ物です。

 関脇はニュージーランドの「エピキュアチーズ」という納豆の4・1倍の1870アラバスターという缶詰にしたチーズで、缶がふくれあがるほど発酵させたものです。
 ただし、最新の現地情報によると、最近の「エピキュアチーズ」は3年も熟成されているにもかかわらず、ブルーチーズよりも臭わないそうです。

 大関は一気に数値が上がり、納豆の14倍の6230アラバスターの「ホンオフェ」です。
 これは韓国の食べ物で、魚のエイを発酵させたもので、薄くスライスしてタレを付け、豚肉に挟んでサンチュという野菜の葉で包んで食べるものです。
 韓国では結婚式のときに出るそうですが、アンモニアの臭いで涙が止まらないそうです。

 しかし、圧倒的な横綱は世界的にもっとも臭い食べ物と評価が確定している「シュール・ストレミング」で、納豆の18倍の8070アラバスターです。
 これはスウェーデン語の「酸っぱいニシン」という意味で、頭と内蔵を除いたニシンを樽の中で発酵させ、殺菌しないまま缶詰にした食べ物です。
 航空機内への持込みは禁止され、缶を空けるとガスによって汁が噴出するので、広い屋外で空けることが条件で、指定場所以外で開けると犯罪になる場合もあるという物騒な食品です。
 ただし、医学界では正式に認められていませんが、白内障や緑内障に効果があると言われています。

 ところで、人間はなぜ鼻が曲がるような食べ物を食べるのかということを調べてみましたが、これという説明は見つかりませんでした。
 素人考えですが、栄養や薬効があるとか、さらには精力がつくからという理由はもっともとして、私は刺激を求める人間の心ではないかと思います。
 心理学の分野に「ウェーバー=フェヒナーの法則」があります。
 人間が感じる刺激の増加は物理的な刺激の増加の量に比例するのではなく、増加の割合に比例するという法則です。
 臭さが10から20になったときと同じ刺激を受けるためには、20から30になるのではなく、20から40にならなければ感じないということです。
 このようにして臭いもの、辛いものへの期待は倍々と増えていき、さらなる刺激を求めていくというわけです。





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