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論文

 情報通信技術の分野の最近の流行語として「IoT」、大文字の「I」と「T」 の間に小文字の「o」をはさんだ言葉が登場してきました。
 これは「インターネット・オブ・シングス」という英語の頭文字を集めた言葉で、日本語では「モノのインターネット」と訳されていることからも分かるように、物と物がインターネットを利用して情報交換するという意味です。
 情報通信技術の基本は電話でもファクシミリでも電子メールでも、人間と人間が情報交換するための手段です。

 これまでの通信について「B2B」「B2C」「G2C」という言葉がありました。
 「B2B」は「ビジネス・ツー・ビジネス」で企業間の通信、「B2C」は「ビジネス・ツー・コンシューマー」で一般のインターネット販売、「G2C」は「ガバメント・ツー・シティズン」で政府から市民への情報提供を表していましたが、すべてそのコンピュータの前には人間が居て、人間と人間の通信でした。
 ところが「IoT」の通信は「M2M」とか「O2O」と表現されます。
 「M2M」は「マシン・ツー・マシン」、機械と機械の通信、「O2O」は「オブジェクト・ツー・オブジェクト」、物体と物体の通信で、その先には人間が存在しないのです。

 具体的な例を御紹介すると理解していただけると思います。
 多数の方々が気付かれないままにご覧になったのは、ソチオリンピック大会でのスキーやスケートの時間の測定です。
 選手がゴールを通過した途端に1000分の1秒までの時間が画面に表示され、順位も一瞬で分かるようになっていましたが、選手の足首などに付けたセンサーの信号をスタート地点とゴール地点に設置された受信機が受信して測定しているのです。
 これは選手という人間には関係なく、発信器という物と受信機という物が情報交換をしていることになります。
 ここしばらくスマートシティとかスマートハウスが話題になっています。スマートハウスでは、建物内部の様々な場所や装置に数多くのセンサーが設置されています。
 例えば、部屋に西日が入るようになるとセンサーが感知してカーテンを閉め、温度が上がると空調設備が稼動します。
 テレビジョンを付けると、部屋の照明をテレビジョンの見やすい明るさに調整してくれます。
 このような生活が快適か、余計なお世話だとか色々とご意見があると思いますが、重要なことは、センサーという物が部屋の状況を感知して、カーテンや空調設備や照明器具などの物に制御情報を送り、人間は関係していないことです。

 このようなことが可能になった背景には4つの技術革新があります。
 第一はインターネットのアドレス表示が「IPv4」から「IPv6」に移行しはじめたことです。
 IPv4は32ビットの情報でアドレスを振り付けますので、最大でも43億しかアドレスが作れません。
 現在、インターネットを使用している人は世界で30億人になっていますから満杯間近です。
 しかしIPv6は128ビットを使用しますので、3の後ろに0が38個並んだ数のアドレスを作ることが出来ます。
 現在、世界に普及しているPCは20億台程度、携帯電話は60億台程度ですが、M2Mの装置は500億台近くになります。
 しかし、1000億台でも0が11個並んだ程度ですから、あらゆる物にアドレスを割り振っても十分に余裕があることになります。

 第二は無線通信の発達です。自動車をはじめ移動している物との通信が必要ですし、スマートハウスも内部に大量のセンサーが設置されますから、いちいち線を引いて繋ぐことはできません。
 そこで、ブルートゥース、ワイマックス、LTEなどの高速の無線通信で繋ぐことになりますが、これが一気に普及してきました。

 第三が物に貼付ける集積回路が小型になり価格が急速に低下していることで、それほど値段を気にしないで、多くの物にセンサーを付けることが可能になっています。自動車では1台に30から40個のセンサーが搭載されています。

 第四は、端末装置の台数からも分かるように「IoT」の情報量のほうが圧倒的大量になりますが、そのようなビッグデータでも十分に解析できるソフトウェアが整備されてきたことです。

 その結果、どういうことが起こるかというと、必要かどうか意見が分かれると思いますが、ある携帯電話会社が3月から始めた「ペットフィット」というサービスは、飼犬や飼猫にセンサーを組込んだ首輪を付けておくと、イヌやネコの散歩距離や食事を食べた量、睡眠時間、現在位置、その場所の気温などを常時計測し、スマートフォンなどに送信してくれます。
 日本ではイヌが1300万匹、ネコが1400万匹飼われているそうですが、その一匹ごとにメールアドレスを付けてもIPv6であれば余裕十分ですし、どこを歩いていてもGPSで位置が確認できますし、その装置の値段も数千円で販売されています。

 このIoTに関連する市場規模は2012年に世界全体で400兆円、2020年には900兆円になると予測され、日本のGDP以上ですから関連分野にとっては見逃せない産業ですが、同時に、あらゆるビジネスにとって、この技術を利用して新しいビジネスを発見できるかが重要です。
 ペットフィットは一例ですが、現在、百貨店やコンビニエンスストアが普及させているポイントカードは購買者の年齢、性別、居住地域などの属性情報を知るために使われていますが、RFIDのような発信機能を持ったカードやスマートフォンに現在のカード機能を組込めば、買物に来た人が店内をどのように動き回るかを追跡することもできます。
 それを利用すれば売場の配置などを合理的にすることも可能です。

 さらにオープンデータ政策によって政府機関などが収集している統計情報を自由に利用することも可能になりはじめましたので、それと一体にしたビッグデータ解析をすれば、例えば気温や降雨と購買行動の関係や、移動手段と購買行動の関係など様々な社会現象全体との関連を、従来のようなマクロの統計解析ではなく、個別の解析をすることも可能になります。

 もちろん、これは間違えばプライバシーの侵害にもなり、「ペットフィット」を越えて「ハズバンドフィット」にならないとも言えません。
 あらゆる技術につきまとう正の側面と負の側面を見極めることも利用者側からは重要だと思います。





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