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論文

 今週の月曜日5月20日は成田国際空港が開港してから35年目を迎えた記念日でした。
 日本が高度経済成長時代に突入した1960年代に構想され、1966年に現在の位置に建設することが決定しました。
 しかし、反対派の抵抗などにより、1971年には警官3名が殉職するという事件があり、73年には4000mの滑走路が完成しましたが、78年3月の開港直前に管制塔占拠事件が発生し、ようやく2ヶ月後の5月20日に1本の滑走路のみで開港にこぎつけたという苦難の歴史を辿っています。
 個人的想い出ですが、78年3月26日の管制塔占拠事件が発生したときは丁度、パリのシャルル・ドゴール空港で日本に帰国する飛行機の出発を待っていたところで、フランスの新聞の1面に管制塔を巡る戦闘場面の写真が掲載され、こんな怖い国に帰るのかと驚いたことがあります。
 その後も反対派の抵抗が続き、2本目の滑走路が建設できず、ようやく2002年に計画の半分程度の長さの滑走路ができていますが、現在でも中途半端な状態の国際空港になっています。

 これが異常な状態であることは、先程登場したパリのシャルル・ドゴール空港の経緯と比較すると明確です。
 パリには1960年代にルブルジェ空港とオルリー空港が存在していましたが、1962年に新空港の建設が決定され、74年に開港しました。
 時期的には成田国際空港と重なるのですが、シャルル・ドゴール空港は敷地面積も成田国際空港の3倍以上で、滑走路も4000mが2本、3000mが2本という巨大空港で、ヨーロッパの中心的な空港になっていますが、残念ながら、成田国際空港は出遅れてしまいました。

 そこで成田国際空港の現状を様々な指標で比較してみたいと思います。
 やはり空港の能力は、どれだけの旅客を輸送しているかが重要な指標になると思いますが、2011年の世界1位はアメリカのアトランタ空港で9240万人、2位が北京首都国際空港で7700万人、3位がロンドンのヒースロー空港で6900万人ですが、成田国際空港は2800万人で50位です。
 しかし、この数字は国際旅客と国内旅客を合計した数字なので、主として国際旅客を対象とした成田国際空港にとっては不本意な比較です。
 そこで国際旅客だけで比較してみると、1位はヒースロー空港で6500万人、2位がアラブ首長国連邦のドバイ国際空港で5800万人、3位がシャルル・ドゴール空港で5600万人ですが、成田国際空港は3000万人で13位で大国としては十分な地位とはいえません。

 空港のもう一つの役割は貨物の輸送ですが、1位は香港国際空港、2位はアメリカのテネシー州のメンフィス国際空港、3位が上海浦東国際空港ですが、成田国際空港は10位となっています。
 ちなみにメンフィス国際空港の貨物取扱量が多いのは、フェデックスという世界最大の運輸会社の本社が存在していることが影響しています。
 これについても成田国際空港の役割を考慮して国際貨物だけで比較すると、1位はメンフィス空港、2位が韓国の仁川国際空港、3位が上海浦東空港で、成田国際空港は6位に向上します。
 シャルル・ドゴールが滑走路を4本、メンフィスが4本、仁川が3本、上海が3本を備えていることと比較すれば、1本半の成田は善戦しているといえます。

 ここで上海浦東空港や仁川国際空港が上位に登場してきたことからも想像ができますが、日本にとって重要なことは成田国際空港がアジア地域の拠点となるハブ空港の地位を確保できるかということです。
 現在、ハブ空港の典型とされるのは国際旅客で3位、国際貨物で4位のアラブ首長国連邦のドバイ国際空港です。
 3年前に乗継ぎのために利用した時は夜中の1時頃でしたが、ターミナル建物の内部に人が溢れていて驚きました、
 さらに先月に立寄った時はターミナル建物の間を自動運転の鉄道で建物を連絡し、ターミナルからターミナルへの移動が20分もかかるという巨大な空港に拡張されていました。
 今回も深夜でしたが、ターミナル内部は銀座の歩行者天国のような雑踏で、24時間、空港が活動していることを示していました。
 1980年には年間270万人の利用でしたが、90年に500万人、2000年に1250万人、2009年に4000万人、2012年に5800万人と、30年間で21倍に増えており、ヨーロッパ、アフリカ、アジアの中間地点にあるという地理的優位を生かし、人口わずか250万人の小国が世界のハブ空港を獲得することに成功しています。

 それでは東アジアのハブ空港の競争はどうかというと、国際旅客数では1位が香港国際空港(5300万人)、2位がシンガポールのチャンギ国際空港(4500万人)、3位がバンコクのスワンナプーム国際空港(3500万人)、4位が韓国の仁川国際空港(3450万人)で、成田国際空港は5位で2600万人です。
 国際貨物についても1位が香港、2位が仁川、3位が上海、4位が成田という状態で、ハブ空港として優位な地位にはありません。

 さらに国際空港協議会(ACI)という組織が、毎年、乗換の便利さ、建物の美しさ、インターネットの通信環境など、様々な空港のサービスを評価しています。
 昨年のアジア太平洋地域では、1位が韓国の仁川国際空港、2位がシンガポールのチャンギ空港、3位が北京首都国際空港、4位がニューデリー国際空港、5位が香港国際空港で、日本の空港は登場しません。
 2006年から行われていますが、常連は仁川国際空港、シンガポール、香港、クアラルンプール、北京の5空港で成田国際空港は一度も登場しません。
 さらにACIは世界の空港で建物の美しさのベストテンも発表していますが、北京、仁川、シンガポール、香港は入っており、日本は登場しません。
 唯一、日本の空港が評価されているのは、空港の便所の清潔さで、1位が関西国際空港、2位が成田国際空港という評価だけです。
 この全体のサービス評価が低い根拠の一つに、空港闘争の名残で現在も空港の手前でパスポートや荷物をチェックするという厳しい検査が行われていることが挙げられます。
 その経費は昨年だけで73億円かかっているそうですが、そろそろ方針転換をして、ビジットジャパンの基礎となる空港のサービス向上に、その費用を向ける時期ではないかと思います。





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