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論文

 国際連合は毎年「国際年」を定めています。
 国際年は1957年の国際地球観測年が最初ですが、それ以後、毎年1つか2つの主題が選ばれてきました。
 これまでの傾向は国際森林年(2011)、国際生物多様性年(2010)のような環境問題に関係するものや、世界物理年(2005)、世界天文年(2009)、世界化学年(2011)など科学に関係するものが多かったのですが、今年は「国際キヌア年」という、何?という主題です。

 「キヌア」というのは穀物の名前です。
 世界は人口がまだまだ増加している一方、旱魃や水害などが頻発して食料生産も順調ではなく、世界では10億人以上が栄養不足状態にあり、今後さらに増加していくと予測されています。
 そこで国際連合の下部組織である国連食糧農業機関(FAO)が中心となって、これまでも国際コメ年(2004)、国際ジャガイモ年(2008)を制定して、食糧問題を世界全体で考える気運を作ってきましたが、今年はキヌアという穀物の知名度を国際的に広め、その増産によって食糧問題を解決する努力をしようというわけです。

 キヌアは南米のアンデス山脈の標高3800mの高地にあるチチカカ湖の周辺地域を原産とする、背丈が2mほどになる1年生草本ですが、多数の房ができて、それぞれの房に250から400粒の種ができ、これを脱穀して食糧にするものです。
 すでに5000年くらい前からペルーでは栽培されており、現在ではボリビアとペルーが最大の産地です。
 これが注目される第一の理由は、寒くて雨の少ない土地でも、土壌が痩せた土地でも成長しますので、世界各地の食糧不足の土地で栽培するのに適していることです。
 第二は栄養価が高く、蛋白質の含有率が多く、コメ以上に必須アミノ酸のバランスが勝れており、しかも小麦アレルギーのようなアレルギーも起こさないという勝れた性質があり、さらにコレステロールを低下させる効果もあるとされているからです。

 1990年代にアメリカの航空宇宙局(NASA)が宇宙での食糧を研究したときに、理想の食材として評価し、21世紀の主要食糧になると発表したことで注目され、最近では日本でも健康食品として販売されています。
 私もアンデス山脈に旅行したときに、キヌアをリゾットにした「キノット」という料理や、キヌアを発酵させたビールのような飲み物を飲んだことがありますが、結構な味でした。
 そのような訳で、今年はキヌアが流行するかもしれませんが、もうひとつアンデス地方原産で注目されている食糧があります。

 南米では「ユッカ」と呼ばれるのですが、一般には「キャッサバ」とか「マンジョカ」と呼ばれるイモで、タピオカの原料としても知られています。
 熱帯地方に生育する背丈が2mほどになるトウダイグサの一種の1年生草本ですが、これはサツマイモのように地下茎の一部が肥大した塊根ができ、それを食用にする作物です。
 これは熱帯地方の特産ですが、乾燥地帯でも、酸性の土壌でも、栄養の少ない土地でも生育するうえ、作付け面積あたりのカロリー生産量が、あらゆる穀物やイモ類よりも多いので将来の作物として注目されています。
 しかも栽培が簡単で、私もアマゾン川の源流地帯の先住民族を訪ねたときに、現地の人がユッカを採掘した後に、栽培する現場を見学しましたが、いま採掘したばかりの茎を30cmくらいに切って、ユッカを掘出した穴に差し込むだけで、半年もすれば、また収穫が出来るという簡単さです。

 大きく苦味のある種類と甘味のある種類に分けられますが、収穫量の多い苦みのある種類は有毒のシアン化合物を含んでいるので、それを除去する必要があります。
 現地で毒抜きの方法も見学しましたが、ユッカの皮を剥いて、卸し金で擂りおろし、水分を絞って数日置いておくと発酵して毒が抜けるということでした。
 この澱粉を焼いた煎餅のようなものを食べさせてもらいましたが、味はないものの歯ごたえが良く、現地の人の大好物の主食になっていました。
 これもメキシコでは4000年前から、ペルーでは2000年前から栽培されていたようですが、第二次世界大戦後の食糧不足から熱帯地方の各地で栽培されるようになり、過去50年間で東南アジアでは生産量が5倍、アフリカ大陸では4倍に増え、世界全体でも3倍に増えています。
 2010年の世界の生産量は2億3000万トンになり、ジャガイモの3億3000万トンに次いで2番目に多いイモ類です。

 世界の三大作物は小麦、コメ、トウモロコシですが、トウモロコシの原産地は中米から南米にかけての一帯ですし、その次に大量に生産されているジャガイモもキャッサバも、今日、御紹介したキヌアも南米大陸のアンデス地方が原産地です。
 それ以外にも、インゲンマメ、ピーナッツ、トウガラシ、カボチャ、トマトなどアンデス地方が原産地で、現在の世界全体の食糧となっている作物は多数あります。
 そのアンデス地方に繁栄していたインカ帝国を16世紀に滅亡させて大量の金銀をスペインに持ち帰ったのがフランシスコ・ピサロの軍隊でした。
 その金銀はスペイン王国を短期間繁栄させただけでしたが、同時に持ち帰ったジャガイモは世界の多数の人々を救うことになりました。
 そして現在、アンデス原産のキヌアやユッカが今後の世界を救う食糧になろうとしています。
 私たちは改めて、そのような作物を何千年も栽培して後世に伝えてくれた先住民族に感謝すべきだと思います。





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