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論文

 11月6日火曜日(日本では7日水曜日)にアメリカ大統領の選挙人を決める選挙が行われました。
 随分半端な日に投票すると思われるかも知れませんが、これは法律で11月の第1月曜日の翌日の火曜日と決められているからです。
 結果は報道されているように、332人対206人という結果でバラク・オバマが勝利しました。
 これでオバマが大統領になるのですが、形式的には、これら538名の大統領選挙人が12月17日に各州の州都に集まって投票し、それが1月6日に開票されて、大統領と副大統領が正式に決定します。
 今回の選挙の投票の主要な方法は、銀行のATM(現金自動預け支払機)のように、タッチパネルの画面を指で触れて行う電子投票と、マークシートにマークを書き入れ光学式読取装置で判読する方式ですが、有権者の約3分の1は電子投票装置で投票すると予想されています。
 ところが、11月5日の読売新聞の「電子投票装置に懸念」という記事によると、多くの州で2週間前から行われている期日前投票で装置に様々な問題が発生しているということです。

 問題は「タッチパネルでロムニー候補を選んだのに、何度やり直してもオバマ大統領になってしまう」という誤動作や、「電子投票装置のソフトウェアを書き換えることによって得票数を操作できる」という学者の指摘があるということです。
 しかし、これは今回が最初の問題ではなく、2000年のブッシュとゴアの選挙のときから問題になっていたことでした。
 最後まで問題になったのはフロリダ州の投票結果で、再調査までおこなわれて537票の差でブッシュが勝ったことになりましたが、10万人の有権者が不当に選挙権を剥奪されたなど、問題山積みの選挙でした。
 山積みの問題で特に話題になったのはフロリダ州で採用されたバタフライ方式といわれるパンチカードに穴を開ける投票システムで、どちらの候補の穴が空いているか明確に読みとれないということで、検査官が1枚1枚目で確認するという滑稽な様子が放送されたりしました。
 ところが、その陰で電子投票装置でも問題が発生していました。
 フロリダ州のある郡はディーボルトという会社の装置を使っていたのですが、有権者が約600人にもかかわらず、電子投票機の結果はゴア候補がマイナス1万4000票、ブッシュ候補がプラス4000票となったり、ES&Sという会社の装置を使った別の郡でもゴア候補がマイナス4000票となったりしていたのです。

 そのような機械の問題だけではなく、フロリダ州知事はブッシュ大統領の弟のジェフ・ブッシュであり、それは仕方がないとしても、州政府の選挙を管理する州務長官(セクレタリー・オブ・ステート)がブッシュの選挙活動委員長も兼ねていたという、信じられない状態でした。
 しかし、世間の目はバタフライ方式の欠陥に巧妙に誘導され、電子投票装置を導入しろということになり、2004年の選挙のときには、全米に約10万台の装置が導入され、ディーボルト社製が5万台、ES&S社製が3万台、セコイア社製が2万台になりました。
 ディーボルト社はオハイオ州に本社があるのですが、オハイオ州政府がディーボルト社の装置を導入する決定をした選挙の管理責任者は、"偶然にも"ディーボルト社の株式を大量に保有していたというおまけまでありました。
 さらに各州の州務長官の多くが投票機械メーカーに天下っているという問題も指摘されています。
 特需に有頂天になったディーボルト社の社長は、共和党に送った献金文書に「11月の選挙ではオハイオ州は必ずブッシュを勝たせる」と書き込んでしまい、それが暴露された結果、自社の投票機械を操作して勝たせるという意味ではないかと追求される始末でした。

 そのような問題を回避するためには投票装置のソフトウェアを公開すればいいのですが、3社あるメーカーのいずれもが「企業秘密」という理由で公開を拒否しています。
 さらに電子投票だけではなく、同時に結果を印刷して保存する装置にすればいいのですが、これもメーカーが「煩雑になるだけで意味がない」と拒否していました。
 しかし2004年の大統領選挙でも問題が発生したので、投票記録で確認しようとしたところ、選挙管理者が"うっかり"廃棄処分にしてしまったという限りなく疑わしい事態でした。
 民主党の勢力の強いカリフォルニア州では、たまりかねて2006年からは紙の出力を義務づける法律を制定したほどです。
 これは対岸の火事ではなく、日本にも飛び火しそうになったことがあります。
 2007年11月に、翌年の2月におこなわれる京都市長選挙のために京都市上京区が電子投票システムの公開入札を行ったところ、アメリカで疑念を持たれている装置を販売するES&S社が入札してきたのです。
 結果は電子投票普及協業組合(EVS)という日本の組織が落札しましたが、話題になっているTPPへの加盟によって市場が公開されることが妥当かどうかの判断材料になる出来事でした。

 この2004年の大統領選挙を視察に来たロシアの国会議員団は「これが民主主義国家アメリカの選挙の実態か」と驚いたそうです。
 ところが、2007年12月にロシアで下院議員選挙が行われたとき、プーチン大統領の与党が圧勝したのを見たブッシュ大統領が「ロシアの選挙には不正の疑いがあり、懸念を表明する」と批判したことがありました。
 言うも言ったりということですが、このような実情を知ると、各自治体が選挙の開票時間の短縮を競っている日本の選挙が清らかな天国に見えてくるほどです。





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