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論文

 今日は「内向き日本は大丈夫か?」について考えてみたいと思います。
 昨年末に内閣府が日本を含めて世界7カ国(韓国/アメリカ/フランス/イギリス/ドイツ/スウェーデン)の13歳から29歳の男女それぞれ1000名ほどを対象にインターネットを利用して行った意識調査の結果が最近、発表されました。
 そこで明らかになった重要なことは、日本の若者が内向きだということです。
 例えば、海外に留学をしたいか?という質問については、韓国が1位で66%の若者が留学したいと答え、アメリカが僅差の65%で2位、ドイツやスウェーデンも50%前後ですが、日本だけが32%と非常に低い状態です。
 このようなアンケート調査ではなく、実数でも、人口1000人につき外国の大学で勉強している人数は、1位のルクセンブルク(人口60万人)の17人、2位のアイスランド(人口35万人)の9人というように小国が多数ということは理解できますが、韓国は2.3人で17位、スウェーデンは1.8人で21位であるのに、日本は0.3人で世界の53番目という状態です。
 日本人の海外への留学生の実数を調べても、1980年代の1万5000人程度から次第に増加し、2005年には8万3000人に到達しましたが、それ以後、急速に低下し、最近では5万5000人程度に減少しています。
 旅行についても同様です。外国から日本への旅行者(インバウンド)は2000年の480万人から昨年の3120万人と6.5倍に増加しました。
 しかし、日本から外国への旅行者は2000年の1780万人から昨年の1890万人と6%増えただけで、ほとんど横ばいで、ここにも内向きの傾向が見えます。

 このように外国への関心が低くなっている傾向は映画の洋画と邦画の比率にも反映しています。
 日本で公開された映画は戦後長らく邦画の方が多かったのですが、1987年に邦画286本、洋画351本と逆転し、2年後の1989年には255本と522本と洋画が邦画の2倍近くになりました。
 ところがその年を頂点に、以後は差が小さくなり、2006年には邦画が417本、洋画が404本と逆転し、以後は邦画が優勢のままで推移しています。
 これは興行収入でも同じ傾向で、1986年に洋画の興行収入が邦画を上回りはじめ、どんどん差が開き、2003年には2倍以上になりましたが、2006年からは逆転し邦画が稼ぐようになっています。

 文学についても同様の傾向があります。
 かつてはフランソワーズ・サガンの『悲しみよこんにちは』、アルベール・カミュの『異邦人』など外国の小説が文庫本で400万部以上売れるベストセラーになったことがありましたが、最近では外国の小説で売れたのはハリー・ポッターのシリーズくらいで、海外文学の翻訳本では初版で1500部程度しか発行しないものが大半という状態になっています。  

 この日本の状況を表す「パラダイス鎖国」という言葉が作られています。
 日本は外国人が住みたい都市の順位でベストテンに入る調査がいくつかあるように安全性や利便性で住みやすい国で、そこから出たくないというわけです。
 一時話題になった極端な例ですが、総合商社に就職した若者が海外勤務を命ぜられた時、国内であればどこでも良いですが、海外転勤だけは勘弁してほしいと断ったという実話もありました。
 海外の大学へ留学する日本の学生が少ないのも、ユニコーン企業のように世界で勝負する日本のベンチャー企業が少ないのも、日本が過ごしやすいパラダイスだからわざわざ海外で真剣勝負をしたくないという気持ちが働いているのではないかと推察されます。

 これは最初に紹介した内閣府のアンケート調査の結果にも現れており、外国に住みたいという日本人の比率は19%と7カ国で最低である一方、ずっと日本に住みたいという比率は43%で最高という結果になっています。
 これは日本が住みやすい国だということを反映した数字ですが、もう一つの理由は日本人が自信をなくしていることを反映しているのかもしれません。
 留学生が増加から減少に転換した時期も、映画が洋画から邦画に移行した時期もバブル経済が崩壊して失われた30年に突入した時期とほぼ重なっています。
 この崩壊によって日本人が自信をなくし、内向きになったという影響もあるかと思います。

 それ以上に重要な変化は日本だけではなく、世界の多くの国が内向きになっていることです。
 イギリスの欧州連合(EU)離脱はますます混迷状態になっていますが、2016年の国民投票で反対48%と賛成52%という僅差であったにしても、離脱が決まったのはEU予算の負担の割合に比べて見返りが少ないという間違った情報が流布したことや、多くの国民が離脱した場合の影響を正確に理解していなかったからかもしれませんが、より大きな背景は自国第一主義の内向き志向が強まっていったことがあると思います。
 アメリカもトランプ大統領になってから一気に内向きの国に転換しています。
 NAFTA(北米自由貿易協定)やTPP(環太平洋パートナーシップ協定)など多国間の貿易協定を破棄して二国間協定に変更しようとし、気候変動に関するパリ協定からも離脱して独自の政策を実行すると表明し、米中貿易戦争も世界経済の混乱は無視して自国だけの利益を追求しています。
 さらにNATO(北大西洋条約機構)も各国の負担金を増やさなければアメリカは離脱すると脅すなど、すべて自国の権益のみを目指す内向きの方針を顕著にしています。

 アメリカやイギリスなど大国が国として内向きになり、日本は国民が内向きになっていくと、中国のように外向きの国が一帯一路などの政策で拡張していこ結果になります。
 江戸時代は鎖国政策により徹底した内向き志向の国でした。
 それは独自の文化を創ることには貢献しましたが、250年間の内向き政策の結果、世界の潮流からは大きく遅れ、明治以来、取り戻すのに大変な苦労をしてきました。
 現在、鎖国をしているわけではありませんが、国民の意識が世界に向かっていない状態になっています。これを変えていかないと世界の潮流から取り残された国になりかねない危機に直面しかねません。ぜひ外向きになってほしいと思います。





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