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論文

 現在、モンゴルにおります。
 昨年11月もモンゴルに出かけ、そのときはモンゴルという国全体の特徴をご紹介させていただきましたが、今回はモンゴルの僻地と言ってもいい田舎を移動していますので、その地域についてご紹介したいと思います。
 モンゴルには2週間近く滞在していますが、前半はフブスグルという地域に行きました。
 モンゴルというと、多くの方は大草原や砂漠を思い浮べられると思いますが、このフブスグルという地域には琵琶湖の4倍の面積のあるフブスグル湖があり、周囲には針葉樹の森林もあるので「モンゴルのスイス」と言われている場所です。
 北海道よりは少し緯度の高い北緯50度ほどの場所にあるのですが、夏でも雪やあられが降り、夜は零度以下になり、やはり大陸の気候は違うと実感しました。
 しかし、今回はモンゴルのスイスに観光に来た訳ではなく、ダルハド盆地に生活してる先住民族のダルハド民族を訪ねてきたのです。

 ダルハド民族は現在でも、夏は北部の森林地帯で、冬は南部の草原で遊牧生活をしており、特徴は5種類の家畜を一緒に放牧していることです。
 これは5畜といわれ、ヤクウシ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギの5種類ですが、5種類を一緒に放牧しているのには理由があります。
 ヒツジの集団に数頭のヤギを混ぜると、なぜかヒツジの集団がまとまりやすいという恩恵があるそうですが、もっとも重要なことは、冬に雪のために草が覆われてしまった時に、最初にヤクウシを放牧すると、雪を掘って下の草を食べる習性があり、その後にヒツジやヤギを放牧すると、ヤクウシが雪を掘った穴の食べ残しの草を食べるので飢え死にしないですむという恩恵もあるそうです。
 これを聞いて思い出したのは、一ヶ月程前に社会は多様であることが重要だということを紹介させていただきましたが、まさに1種類だけではなく、5種類の家畜を放牧するという多様性の効果がモンゴルの草原でも現れていると思いました。

 モンゴルというと多くの方は住居のゲルという建物を思い浮かべられると思います。これは草原を移動するために工夫された住居で、簡単に説明すると、木の骨組みをフェルトで覆った住居で、大人が2、3人で1時間もあれば組み立ても解体も出来るという優れた建物です。
 長年の経験から工夫された住居なので、気温に合わせて天窓を開閉したり、周囲の壁を覆っている布を開閉したりして、室内を快適な条件に保つように出来ており、一晩泊めてもらいましたが、仮住まいという感じのしない快適さでした。

 次は食事です。モンゴルというとジンギスカン鍋を思い浮べられる方も多いと思いますが、あれは日本で発明された料理です。
 モンゴル人の感想は「肉の味は違うが、焼いて食べるのも美味い」という程度ですが、名前は英雄のジンギスカンを食べるような気がするので抵抗があるということのようです。
 主食は白い食べ物(ツァガンイデー)と呼ばれる乳製品で、20種類以上の乳製品を自分の家で作ります。 
 そして酒も動物の乳から作ります。代表は「アイラグ」と言われる馬乳酒で、ウマの乳をウシの皮で作った袋に入れて発酵させたものです。
 お茶にもミルクは使われており、「タン茶」というレンガのように固めたお茶の葉を削ってお湯の中に入れ、絞り立ての乳を入れて飲む「スーティーツァイ」が朝食になっています。

 最後に遊牧という生活について感じたことを話させていただきたいと思います。
 ヨーロッパやアメリカでの放牧は森林を開拓して行ったので、環境破壊の問題が指摘されることがありますが、モンゴルはもともと草原で、その特徴を最大に活かした生活が遊牧だと思います。
 草原の生産性はそれほど高くないので、一カ所に定住すると草が食べつくされて砂漠になってしまいますが、次々と場所を移すことによって2000年近く、草原を維持してきました。
 モンゴルはゴビ砂漠で南北半分に分断され、北側がモンゴル国、南側が中華人民共和国のモンゴル自治区になっています。この南側は戦後になり中国が定住政策を進め、農業をすることにしました。
 ところが衛星写真で見ると分かるのですが、南側は本当の砂漠になってしまい、北側は草原として残っているのです。
 やはり、千年以上生活してきた人々は自然を知りつくして生活してきたのだと実感しました。





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