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論文

 年末が近付きますと「喪中につき年末年始のご挨拶をご遠慮申し上げます」というハガキが来ます。
 僕も年をとったので、毎年、受け取る枚数が増えているという気がしますが、これは感覚だけではなく、事実、枚数が増えている背景があります。
 そこで今日は喪中に関係する葬儀について最近の動向を紹介させていただきたいと思います。
 葬儀と言えば、TBSやTBSラジオも製作委員会の一員として参加して製作した映画「おくりびと」が大ヒットし、第32回モントリオール世界映画祭でのグランプリ受賞をはじめ、数々の栄誉を受けていますし、来年のアカデミー賞の候補作になるという噂もあります。
 これは亡くなられた方を化粧し納棺するまでの仕事をする納棺師を主人公にした映画ですが、このような葬儀を題材にした映画は1984年に公開された伊丹十三監督の「お葬式」や、1984年に公開された緒形拳さん主演の「社葬」など、話題作が多いのですが、今回の「おくりびと」は興味ある内容と同時に、社会の流れを捉えたことがヒットした理由ではないかと思います。

 まず日本では2005年に出生率が人口あたり8・3人、死亡率が8・5人と逆転し、死亡者数のほうが多い社会になったことです。
 振り返ってみると、医療制度や医療技術の進歩によって、人口1000人あたりの死亡者数は戦後の14・6人から急速に下がり1982年には6・0人になったのですが、それ以後、増えはじめ、2005年には8・5人になりました。
 これは戦後の1947年には男性50歳、女性54歳であった平均寿命が、現在では79歳と85歳で世界最高水準になり、高齢者が増加したからです。
 その結果、死亡者の合計は2001年の98万人から2005年には112万人になり、30年後の2038年には170万人にまで増加すると推計されています。
 そうなれば葬儀の数も増えるということです。
 そのような動向を反映して、葬儀をおこなう葬祭会館の数は、約30年前の468施設から最近では5471施設と12倍にも増えています。わずか30年間で5000施設以上も増えたのです。
 これは死亡者数の増加だけでは説明がつかない増え方ですが、その背景があります。
 葬儀をどこで行うかについて公正取引委員会が行っている調査によると、2001年には自宅が29%でしたが、2006年には16%に下がり、葬祭会館を利用する比率が50%から69%に増えています。

 大都市に人口が集中して、多くの人が集合住宅に生活するようになると、自宅は葬儀をするほど十分な広さがないし、地域社会が希薄になっているので、自宅で葬儀を行っても隣近所の人が手伝ってくれるわけでもないどころか、迷惑にもなるという背景があります。
 そのような状況を反映して、葬儀にも新しい波が押し寄せています。
 まず冠婚葬祭は長年の社会の伝統が積み重なって費用が複雑で明確ではない面が多いのですが、それを明朗会計にした葬儀会社が登場しました。
 日本に初めて設立された外資系の葬儀会社「オールネイションズ・ソサエティ社」で、列席者数により変化する飲食費や返礼品の費用を除いて、50万円、90万円、110万円という3種類の基本料金のみです。
 これを設立したのはアメリカ人のジョン・キャムさんですが、実家がデンバー最大の葬儀会社という利点を生かし、早稲田大学大学院で経営学を勉強したとき、日本の葬儀市場を研究し、明朗な葬儀会社は絶対に成功すると確信し、設立したところ成功したというわけです。
 また、最近はモノを買う時は「価格・com」で値段を比較してからという人が増えていますが、その最初のページには「葬儀」という項目もあります。
 火葬のみであれば8万4000円から30万円程度まで、社葬であれば399万円から786万円までなどと例示され、地域ごとに値段で葬儀社を選ぶことが出来るようになっています。
 一般に葬儀を簡素にするという傾向もあり、新聞の死亡欄を見ていても、身内で済ませたという事例が増えていますし、テレビジョンのニュースで有名人の主観の場面を見ていても、神社の形をした霊柩車があまり使われず、普通の自動車を改造した目立たない霊柩車が多いようです。

 しかし、日本の葬儀に大きな問題が発生しています。1952年には全国で2万6089カ所あった火葬場が2006年には4899カ所に減っており、半世紀の間に5分の1以下になってしまったことです。
 昨年から今年にかけて全国で31の火葬場が竣工しているようですが、50年前に比べて亡くなる方は2倍になっており、最初にもご紹介しました団塊の世代が平均寿命に到達する2030年代には現在より年間50万人以上増加して170万人にもなりますから、深刻な問題です。
 原因は火葬場が出来ると周辺の地価が下がってしまうとか、交通渋滞が発生するなど、住民の反対です。
 そこで最近、火葬船、すなわち2600トン級のカーフェリーを建造して、洋上で火葬をしようという構想が登場しました。
 この建造費は20億円程度と見積もられていますが、地上に火葬場を造ると30億円から40億円とされていますから、十分に成立しますし、30年代以後、亡くなる方が減る時代になれば、解体してリサイクルもできるというアイデアです。
 日本の社会が人口も経済も減少する時代になり、医療保険、年金問題だけではなく、このような面にも新しい問題が発生しているということだと思います。





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