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論文

 ここ3年ほど、日本海に大量に出現したエチゼンクラゲが話題になっていましたが、今年になって、突然、姿が消えてしまいました。
 エチゼンクラゲは成長すると直径2m、重さ150Kgにもなり、毎年8月から翌年2月にかけて対馬海流に乗って日本海を北上し、定置網の中に多い時には3000匹以上もかかり、漁業に大きな被害を与えてきました。
 水産庁の資料によると、エチゼンクラゲによる漁業被害の件数は、平成17年には10万8991件でしたが、18年には4万7866件、昨年は1万5782年と急速に減り、今年は現在のところ被害の報告はないということです。
 その原因について、11月21日の産經新聞が報道していますが、対馬周辺でユウレイクラゲが出現しており、成長する前のエチゼンクラゲがエサとして食べられてしまったという説、大量の雨が降って沿海部の塩分濃度が下がって生育環境が悪化したという説、藻が海に大量発生し、植物プランクトンを吸収し、クラゲがエサとする動物プランクトンが減ったという説などがあり、これだという確定的な理由はないようです。
 漁業関係者は歓迎していますが、エチゼンクラゲを食材や肥料などにしようと研究をしていた企業は困ったということのようです。

 今年は、もう一つ、クラゲが話題になりました。
 1週間後の12月10日はアルフレッド・ノーベルの命日を記念してノーベル賞の授賞式がストックホルムで開催されますが、今年は科学分野のノーベル賞を何人もの日本人が受賞するという当たり年でした。
 その一人ボストン大学名誉教授の下村脩(おさむ)博士はオワンクラゲから緑色蛍光タンパク質(GFP)を発見した業績でノーベル化学賞を受賞しました。
 これは紫外線を当てると、その光を吸収して緑色に輝く物質で、GFPを作る遺伝子を他の生物のDNAに組み込むと、その関係する部分が緑色に光るので、実験の標識となり、生命科学や医薬品の開発にはなくてはならない物質です。
 この物質を分離するため、下村博士はこれまで100万匹以上のオワンクラゲを捕獲したとのことです。
 ちなみに、下村博士は今回の受賞で世界的に有名になりましたが、これまでは息子さんの下村努さんのほうが有名人でした。
 コンピュータセキュティの専門家で、アメリカに史上最強といわれたケビン・ミトニックというハッカーの逮捕に貢献したからです。

 このクラゲに関係したノーベル賞受賞のおかげで、風が吹けば桶屋がもうかるような話が日本に登場しました。
 山形県の鶴岡市にある鶴岡市立加茂水族館はクラゲの飼育と展示に特化して、不振の水族館の立て直しに成功した施設です。
 下村博士がオワンクラゲから抽出した発光物質の発見でノーベル科学賞を受賞したというニュースを聞き、水族館で飼育しているワンクラゲを調べてみたのですが、まったく光っていないのです。
 そこで恐れながらと村上館長が下村博士に受賞のお祝いを兼ねた手紙を送ったところ、国際電話がかかってきて、飼育したオワンクラゲはエサの関係で発光しないので、「セレンテラジン」という物質をエサに混ぜれば光るという情報と、その物質の日本での入手方法まで教授されました。
 そこで、オワンクラゲのエサになるシロクラゲにセレンテラジンを注入して、オワンクラゲの水槽に入れたところ、しばらくして緑色に光り出したというわけです。
 この実験がおこなわれた1週間後に加茂水族館に出かけたのですが、話題のオワンクラゲを見ようと多数の人々が来場しており、テレビ局が何局も取材来ているほどでした。

 加茂水族館は昭和40年代は年間20万人以上の入場者がある人気の施設でしたが、次第に入館者数が減っていき、10年前の平成10年には9万人まで低下してしまいました。
 苦肉の策で、目の前の日本海で獲った2種類のクラゲを展示したところ、関心を示す人が多いようなので、クラゲで日本一の水族館になろうと決めました。
 平成12年には12種類のクラゲの展示に成功して日本一になり、さらに平成17年には20種類にまで増やし、世界一であったアメリカのモントレー水族館を抜いて世界一になり、現在は35種類を展示しています。
 それとともに入場者数も回復し、平成17年には17万人を突破しました。最近では、館内の食堂でクラゲラーメン、エチゼンクラゲ定食、クラゲ羊羹、クラゲまんじゅう、クラゲジュースまで提供しており、これも意外な人気です。

 それ以外に新江ノ島水族館でも15種類のクラゲを巨大な水槽で展示し、1、2ヶ月に1回の割合で、この水槽の周囲で食事をし、睡眠も出来る成人女性向けの「クラゲ・ヒーリングナイト」を開催していますが、30〜50人の定員に3倍近い応募があるそうです。
 また、数年前から発売されている、人工の材料で作ったクラゲを水槽の中で泳がせる「アクアピクト」「シーカクテル」などのインテリア装置の人気が高まっていますし、それを芸術作品とした「浮遊体アート」を制作している奥田英明(えいめい)さんも注目されています。
 日本大学の廣海教授の調査によると、水族館で癒しの効果で人気があるのはイルカに次いでクラゲが2番目だそうです。
 本物のクラゲにしろ人工のクラゲにしろ、水中をふわふわと浮遊している半透明な生物に照明を当てて眺めていると、幻想的な気分になり、現在の不景気で逼塞感のある時代に癒しの気分を味わえるということが人気の秘密ではないかと思います。





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