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論文

 来週の月曜日9月28日は日本で「パソコン記念日」となっています。
 これは30年前の1979年9月28日に、日本電気が日本で最初のパーソナル・コンピュータ「PC8001」を発売し、パソコンプームの発端となったことを記念したものです。
 このパソコンには、もう少し前史があり、自分で回路を設計して部品を購入して組み立てていたマニアックな人々を別にすれば、5年前の1974年まで遡ります。
 この年にアメリカで「アルテア8800」という組み立てキットが395ドルで発売され、翌年『ポピュラーエレクトロニクス』という雑誌に紹介されたため、3ヶ月で4000台も売れるというブームになったのです。
 これはコンピュータと言っても8ビットのCPUと256バイトのメモリーしかなく、キーボードもディスプレイもテープやディスクなどの装置もなく、前面のスイッチを上げたり下げたりしてプログラムを入力し、計算結果は2列のLEDの点滅状態で判断するという高級玩具でした。

 その日本版は1976年8月に日本電気が発売した「TK-80」という組み立てキットです。
 これは僕も購入して組み立てました。1枚のボードに集積回路などの部品をハンダゴテで接続して完成させるのですが、16進数を入力できるキーボードと8桁のLEDの表示パネルがあるだけで、電源も秋葉原で別途購入する必要があり、プログラムは機械語という無味乾燥な記号で入力しなければならず、8+3という計算式を何行ものプログラムで入力すると、LEDパネルに16進数で11を示す「B」という文字が出て大喜びという状態でした。
 大学助教授になったばかりの僕の月給が20万円の時代に8万円という高価な玩具でしたが、毎月1000台も売れるほどの人気でした。
 当時は大型コンピュータを時間あたり何十万円という値段で使ったり、パンチカードで作ったプログラムを渡しておくと数日後に計算結果を渡してくれるという時代でしたから、自分のコンピュータが手元にあるということで感激したのです。
 そして翌年の1977年に完成品として発売された「アップルU」が登場し、以後、技術も急速に進歩し、現在ではパソコンは玩具から、仕事になくてはならない必需品になったのですが、そのパソコンに最近、大異変が発生しています。

 5万円パソコンの登場です。
 机の上に置いて使うデスクトップ・コンピュータの5万円前後の製品は、すでに2002年から「イーマシンズ」「デル」「ヒューレット・パッカード」というコンピュータメーカーの製品や、「コジマ」「ヨドバシカメラ」など量販店の製品が発売されていますが、携帯用のパソコンについては、今年1月に台湾のアスーステック・コンピュータが4万9800円でミニノートパソコンと言われる、ノートパソコンより小型の携帯用のパソコンを発売しました。
 それに影響されて、6月にはアメリカのヒューレット・パッカード、8月には台湾のエイサー、9月にはアメリカのデル、日本のソーテックと次々に5万円パソコンが登場しています。
 これらは全体の大きさが、これまでのA4サイズに対しB5サイズ以下、重量は1キログラム前後、液晶画面は、これまでの12から13インチに対し7インチから10インチと一般のノートパソコンよりも小型で、メモリーは512MB程度、記憶装置は数GBという仕様です。
 OSは日本で発売されている機種はウィンドウズXPのホームエディションが中心ですが、外国ではリナックスが多く使われています。

 これまでのノートパソコンが15万円から20万円もしているのに、なぜ3分の1から4分の1の価格で提供できるのかということですが、部品などの価格が下がっているという以外に、いくつかの理由があります。
 第一は機能を最小限に制限して無駄を省いているということです。例えば、ハードウェアではPCカードスロットが付いていないものが多いし、ソフトウェアでは1世代前のウィンドウズXPのホームエディションやリナックスが使われています。
 最新のウィンドウズ・ビスタには様々な機能が含まれていますが、インターネットでウェブサイトを閲覧してメールをやり取りできれば十分という多くの利用者にとって、生涯使うことのない機能が大半です。
 それをウィンドウズXPホームエディションやリナックスにしておけば、安価で記憶装置も節約できるということになります。

 第二は汎用部品を使って組み立てているということです。当然、汎用部品は単価が安いので製品も安くなることになります。

 これは日本の利用者とメーカーの両方に重要な意味をもっています。日本人はほとんど使わない機能でも、複雑な機能が搭載された装置を歓迎する傾向にあり、例えば、内蔵カメラの画素数が多いと売れるというのが実情です。
 それに応えようとするメーカーは独自の方式と専用の部品を開発して製品を製造するために、結果として高価な製品になるという循環です。
 この失敗は携帯電話では明らかで、現在、世界の携帯電話市場はフィンランドのノキアが38%、韓国のサムスン電子とアメリカのモトローラがそれぞれ14%、ソニーエリクソンが9%、韓国のLG電子が7%という比率ですが、日本はソニーエリクソンを除いた9社の合計で5・5%にしかなりません。
 この携帯電話の日本の製品には生涯に一度も使うことのない複雑な機能が満載ですが、結果として高いために、世界市場では簡単な機能の製品を汎用部品で世界共通の仕様で安価に作る外国企業に対抗できないという状態になってしまっています。
 日本のコンピュータも、その方向に向かっているのではないかと思います。
 以前、ご紹介した、日本という島国だけで特殊な進化を遂げているガラパゴス状態から脱却しないと、世界で孤立することになりかねません。
 製品を提供するメーカーだけではなく、われわれ利用者もガラパゴス思想から脱却する必要があると思います。





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