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論文

 先週の3連休に北海道を旅行してきたのですが、日高山脈の東側の山麓に広がる清水町に「十勝千年の森」という施設があり、そこを見学してきました。
 これは毎日、相当の量の紙を使うために森林を伐採している地元の十勝毎日新聞社が、それを補うという精神で植林を始めた場所です。
 以前もご説明したことがありますが、このような方式をカーボンオフセットと言います。 
 二酸化炭素を排出する分を、植林によって相殺する、すなわちオフセットしようという考え方です。
 かつて開拓によって森林が伐採されて牧場になっていた山麓地帯を約400ヘクタール購入し、そこで植林をしているのですが、従業員が木を植えるだけではなく、内部にはレストランやチーズ工房があって食事ができますし、馬やセグウェイで森の中を散策することもできるようになっており、一般の人々が入園料を払い、係の人に森の中を案内してもらいながら、植林をするという運営が行われています。

 北海道では富良野を拠点に演劇活動をしておられる倉本聰さんが運営しておられる「富良野自然塾」も有名で、ここも6月に体験してきましたが、閉鎖されたゴルフ場の460ヤードのホールを、46億年の地球の歴史を歩きながら理解できるように手を加え、40ヤードほど進むと、岩が青色に塗ってあり、地球の誕生から4億年後に海が誕生したことを示していますし、白く塗ってある場所は地球全体が寒冷になり全体が凍結した時代を示しています。
 430ヤード地点には両生類の模型が置いてあって、3億年ほど前に生命が陸上に上陸してきたことが分かります。
 そしてグリーンの数センチメートル手前には高層ビルの模型があり、人間の繁栄はほんの最近のことだと実感できる仕組みです。
 このようにして地球と人間の関係を理解してから、かつてのフェアウェイで植林をするというわけです。
 こうした自然環境を観光しながら自然を理解したり、環境保護の活動をしたりすることをエコツーリズムといいますが、国内でも海外でも急速に広がっています。

 エコツーリズムの明確な定義はありませんし、いつ始まったかも明確ではありませんが、ある地域固有の自然や文化を資産として利用した観光によって、地域の経済が発展すると同時に、その自然や文化が保護され保全されることと説明すれば、何となく理解していただけるのではないかと思います。

 実例でご紹介しますと、今年の2月にニュージーランドの原生林をエコツアーで歩きました。
 少人数のグループにマオリ族の案内役の人が付き添い、その森に伝わるマオリ族の伝説を話してくれたり、歩いている途中で見つけた薬草や食用になる草を説明してくれたりというツアーでした。
 これはマオリ族の維持してきた原生林という自然や薬草という文化が資産として利用され、案内役の人も収入を得ることができ、多くの人が美しい森やマオリ族の文化を知ることによって、それらが維持されることになります。

 世界ではすでに1978年に世界遺産に指定されているガラパゴス島がエコツーリズムの草分けと言われており、あらかじめ宿泊する場所が決まっていなければ飛行機に乗れないし、ナチュラリストといわれるガイドの付き添いがなければ保護地区へは入れない仕組になっています。
 それ以外にも、コスタリカの熱帯雨林、ブラジルにある世界有数の湿地パンタナールなど、世界にはエコツーリズムで有名な場所が多数ありますが、最近、日本でも増えてきました。
 北海道の釧路と根室の間の浜中町という人口6800人の町がありますが、そこに東京ドームの700倍の面積の霧多布湿原という日本で3番目に大きい湿原があります。
 初夏になるとエゾカンゾウの黄色の花が一面に咲くということでも知られています。
 ここには地元の人々が設立した「霧多布湿原トラスト」というNPO法人があり、エコツアーを実施しています。
 1人のガイドに10名までと参加人数を制限し、湿原の動物や植物の説明、この地域の歴史の説明だけではなく、漁師さんや農家の人々と共同で地域の漁業や農業についても説明してくれます。
 参加者は料金を支払うのですが、それは湿原に木道をつくる資金にも使うほか、湿原内の民有地を買い上げるためにも使われます。
 まさに地域の自然資源や漁業・農業という文化資源を利用して地元の経済を発展させると同時に、その収入によって環境保全も進めていることになります。

 岩手県の川井村は盛岡市と宮古市に挟まれた北上山地にあり、面積は563平方キロメートルで東京都23区の622平方キロメートルに匹敵する広い村で、その94%が山林という過疎地です。
 2006年10月に、この村に「木の博物館」が開館しました。しかし、これは建物があるわけではなく、森林そのものを博物館にしているのです。
 役場に本館があり、それ以外に16の場所が「水源の森」や「育林の森」というような分館に指定されており、旅行者は申請書を提出すると10人に1人の割合で案内人が付いて案内してくれる制度で、最近では年間800人以上が入館しているそうです。

 アメリカでは旅行の10%近くがエコツーリズムになっていると推定されていますが、日本では1%にもなっていないようです。
 僕もニュージーランドの森へ行ったときは自分で自由に歩いた方が気楽でいいと思っていたのですが、案内してもらうと、案内書を頼りに歩くのとは比較にならないほどの情報が得られ納得しました。
 日本には日本エコツーリズム協会という組織が情報を提供してくれますので、秋の観光シーズンにひと味違った観光を体験されてはどうでしょうか。





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