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論文

 今日は気象予報士の日です。今から15年前の1994年の今日、最初の気象予報士の試験が行われたからですが、最初の試験の合格率は18%で、昨日も番組に出ておられた森田正光さんも不合格となり話題になったほど難しい試験です。
 僕も海でカヤックをするときは天気図を見て天気を予想しながら出発したり中止したりして、それなりの経験があるし、理科系なのである程度の予備知識はあるからと受験を目指し、過去の問題集を買って解いてみたところ、地球物理の基礎的な問題は全問正解で、これなら楽勝と思いながら進んでいったところ、実務的な予測になると歯が立たず、今のところ頓挫しています。
 改めて森田さんをはじめ、ニュース番組などで天気予報をしておられる若い女性の予報士を尊敬しているのですが、この気象予報という仕事は非常に重要な仕事だということを紹介したいと思います。

 まず戦争では、古今東西、気象予報が大変に重要な役割を果たすという例が多数ありますが、日本の歴史で有名なのは、1560年6月12日(新暦換算)、尾張の織田信長が駿河の今川義元を奇襲攻撃で打ち破った戦いです。
 兵力は諸説ありますが、今川軍2万5000から4万5000に対し、織田軍は3000から5000でしたから、いずれにしても10倍近い敵を倒したことになります。
 従来は豪雨の中を織田軍が奇襲したということになっていましたが、最近では雨が止んだ14時頃に奇襲したという説が有力です。
 この背景には手前の熱田神宮で必勝祈願をしたときに、信長は天気が崩れることを確信し、その通りに悪天候になった中を進軍し、今川軍の本隊が休息をとっていた桶狭間を急襲したという気象予測が関係しています。
 悪天候で視界が悪かったことと、雨で足音が聞こえなかったため、今川軍は織田軍の接近に気付くのが遅れ、大混乱となって敗戦したというわけです。

 織田信長は1575年6月29日の長篠の戦いでも、武田勝頼軍を破っていますが、このときも天気予報を上手く使ったといわれています。
 兵力は織田信長・徳川家康連合軍3万5000と武田勝頼軍1万5000で、織田徳川軍が上回っていたのですが、武田軍には、最近では実在を疑問視する説もある有名な騎馬隊を備えており、それに対し、織田徳川連合軍は3000丁の鉄砲で対抗することにしていました。
 当時の鉄砲は火縄銃ですから雨が最大の強敵です。そこで織田徳川軍は岐阜から出発して3日で到着する行程を1週間かけて進軍します。これは梅雨明けを待っていたといわれています。
 決戦の前夜は大雨だったのですが、当日は晴れたため鉄砲隊が大活躍して武田軍を破ったといわれています。
 詳細については諸説がありますが、信長が天候を重視していたことは確実です。

 世界にも天候が左右した戦争は多数ありますが、有名な例は1944年6月6日(D-Day)のノルマンディ上陸作戦です。
 この作戦には空軍の支援が必要でしたが、当時の飛行機は悪天候では十分に活動できないので晴れていることが必要でした。
 2日前にイギリス空軍の主任気象官が、これからしばらくはドーバー海峡に前線が近づくが、一時的に回復し、6日の早朝一杯は天気が保つという予測を報告します。
 それによってアイゼンハワー陸軍元帥が上陸命令を出し、歴史的な上陸作戦が実行されました。

 現代では気象予測は正確になり、兵器も向上して、かつてほど天候に左右されなくなり、天気予報は気象災害を避けるために重視されるようになっています。
 地球温暖化の影響かどうかは明確ではありませんが、21世紀に入って世界全体で気象災害は増加し、2001年と2005年を比較すると、世界の気象災害は金額で6・8倍に増えて約21兆円、そのために損害保険業界が支払った保険金は7・9倍に増えて約10兆円になっています。
 このような災害を減らすために気象予測は重要なのですが、日本で問題が発生しています。

 現在の気象予報が正確になっている大きな要因は気象衛星の利用が可能になったことです。
 気象予報士の方には失礼ですが、時々刻々と変化する気象衛星の写真を見ていれば、素人でもある程度の予測が可能なほどです。
 この気象衛星は1960年にアメリカの航空宇宙局(NASA)が打ち上げた「タイロス1号」が最初で、日本では1977年に最初の静止気象衛星「ひまわり1号」が打ち上げられました。
 そして現在は2005年に打ち上げられた「ひまわり6号」と、2006年打ち上げの「ひまわり7号」が予備機として使われています。
 ところが衛星には寿命があり、現在の2機は2015年頃に寿命となり、次の気象衛星を準備する必要があります。
 まだ7、8年も先の話ではないかと思われるかも知れませんが、衛星の建造には5、6年はかかるために、そろそろ予算を確保しなければならないのですが、なかなか進んでいません。
 大略の費用は予備機を含めた2機で800億円ですから、これから毎年100億円程度の予算が必要ですが、その確保の目処が立っていないのです。
 個人的見解ですが、それほど必要とされない道路に毎年数兆円を支出しているわけですから、災害を未然に防止し、人命を救うことにも役立つ気象衛星に、その0・2%にもならない予算を割くことは政府全体で検討すべきではないかと思います。





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