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論文

 北海道洞爺湖サミットも3週間ほどに迫り、その主要議題のひとつである地球温暖化に関する話題が色々とマスメディアで採り上げられるようになっていますが、その重要なキーワードになっているのが「カーボン(炭素)」です。
 今週月曜日の16日には、私も一員として参加した「地球温暖化問題に関する懇談会」が福田首相に提言書を提出しましたが、この懇談会は別名「低炭素社会(ローカーボン・ソサエティ)懇談会」といわれています。
 その懇談会の下に、環境モデル都市を構築する分科会が置かれ、全国の自治体から公募した計画を選定する作業が現在進んでいますが、この分科会の名称は「環境モデル都市・低炭素社会づくり分科会」となっています。
 また火曜日の17日には経済産業省が「カーボン・フットプリント」を議論する研究会を発足させました。
 このように「炭素」「カーボン」が入った言葉が頻繁に使われています。そこで今日は「カーボン」から環境問題を眺めてみたいと思います。

 何となく現状では炭素が悪者のようになっていますが、もし地球を取り巻く大気のなかに炭素と酸素が結合した二酸化炭素が存在しなければ、地球の表面の平均気温は現在の15℃ではなく、マイナス18℃になるという計算になりますから、炭素様々なのです。
 しかし、現在、悪者のように言われるのは産業革命以前に280ppm程度であった大気中の二酸化炭素の濃度が急増して、現在は380ppmにもなってしまい、これが大気の温度を急速に上昇させていると考えられているからです。

 この問題は現在でこそ政治や経済も関心を示していますが、科学の世界では100年以上前から分かっていたことです。
 現在でも使われているフーリエ級数とかフーリエ解析を考え出したフランスの数学者ジャン・バティスト・ジョセフ・フーリエは、すでに1827年に地球に大気がなければ表面温度は非常に低くなると発表しています。
 またティンダル現象に名前を残すアイルランド生まれの物理学者ジョン・ティンダルは、大気中の水蒸気や二酸化炭素が大気を暖めている要素だということを1860年に発見しています。
 さらに明確に予測したのが1903年にノーベル化学賞を受賞したスウーデンの化学者スヴァンテ・アレニウスです。
 彼は1896年に『ロンドン・エディンバラ・ダブリン・フィロソフィカル・マガジン』に発表した論文で、「人間の活動は空中に炭鉱を拡散させているようなもので、その大量の二酸化炭素によって地球は温暖になる」と説明し、もし二酸化炭素の濃度が現状の300ppmから2倍の600ppmになれば、北極の温度は5〜6度は上昇するという計算までしています。

 最近になり、このカーボンという言葉がマスメディアにも頻繁に登場するようになったのですが、まず話題になったのが昨年11月1日からJP日本郵政グループが発売した1枚55円の「カーボン・オフセット年賀状」でした。
 「オフセット」というのは「相殺する」という意味ですが、年賀状を出すと葉書の生産や配達のために二酸化炭素を出すので、それを5円余分に払うことで、その寄付金を植林など二酸化炭素の削減の防止活動に役立てるという趣旨です。
 二酸化炭素を金銭に換算しても意味がないかも知れませんが、発効された「カーボン・オフセット年賀状」は1億枚ですから5億円が集まったことになり、これをEUの排出量取引市場の価格で換算すると約16万トンになり、これは京都議定書で日本に課せられた6%の削減目標のうちの0・2%に相当しますから無視できない数字です。
 最近では結婚式を挙げるときに、その挙式のために排出される二酸化炭素分をカーボン・オフセットとして寄付するというようなことも流行しています。

 次いで昨日、委員会が発足した「カーボン・フットプリント」です。フットプリントは足跡という意味です。
 エコロジカル・フットプリントという概念がありますが、これは人間の行動が環境にどれだけの影響を及ぼすかを計算した数値です。
 同様に、人間の行動がどれだけ二酸化炭素を排出するかを計算して表示するのが「カーボン・フットプリント」です。
 例えば、その数値を商品にラベルで表示しておき、購入する人がよりカーボン・フットプリントの少ない商品を購入したり、カーボン・オフセットを支払う目安にしたりする仕組みで、すでにイギリスでは一部の商品に表示されています。

 次は「カーボン・ポジティブ」と「カーボン・ネガティブ」です。人間のある活動が排出する二酸化炭素と、それを防ぐための植林活動などが吸収する二酸化炭素を比較して、吸収量のほうが多い場合、すなわち環境に貢献している場合をカーボン・ネガティブ、少ない場合をカーボン・ポジティブと呼びます。
 一例として、合成ゴム製品はカーボン・ポジティブ、天然ゴム製品はカーボン・ネガティブということになります。
 当然、その中間のプラスマイナスゼロは「カーボン・ニュートラル」と呼ばれます。例えば、薪ストーブで木を燃やすと二酸化炭素は排出されますが、その木に含まれている炭素は、もともと空気中に存在していた炭素が光合成で木に固定されていたものなので、燃やして二酸化炭素が排出されても空気中の炭素が増加したことにはならないので、「カーボン・ニュートラル」であるというように使います。

 これまで経済の基礎は「金本位経済」とか「ドル本位経済」と言われてきましたが、すべての社会活動が炭素をどれだけ排出するか、どれだけ吸収するかで評価され、実際に炭素が金銭に換算されて売買される取引も動き始めていますから、これからの環境時代は「炭素本位経済」になる可能性があります。
 「カーボン(炭素)」という言葉に注目して社会を眺められると、新しい発想が得られると思います。





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