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論文

 世間の評判が芳しくない後期高齢者医療制度が4月1日から実施され、今週の火曜日15日から保険料の徴収が始まりました。
 すでに詳しく報道されていますが、簡単に制度の仕組みを紹介しますと、75歳以上と重い障害のある65歳から74歳の1300万人の高齢者の医療保険を独立させた公的医療保険で、年間の年金受給金額が18万円以下の高齢者を除外した約1000万人の人々の年金から保険料を天引きする制度です。
 説明が不十分であり申し訳ないと首相が謝罪したり、6万人以上の人に保険証が届いていないという不手際があったり、記録の不備で年金が十分に支払われていないのに天引きだけされたり、低所得者層の保険料は下がると厚生労働省が説明しているのに大阪府では年金受給額が多いほど保険料が減るという計算が発表されたりという具合に、役所仕事の典型です。
 その挙げ句、後期高齢者とは何事かと騒がれた途端に、首相の一声で長寿医療制度という通称で表面だけを繕おうとしたりという惨状です。

 この問題自体は野党が結束して制度廃止にすると言っていますし、自治体が助成金を出して天引き金額を軽減したりする補正も行われていますので、立ち入らないことにし、今日はこのような問題が発生している日本の社会の背景をご紹介したいと思います。

 かつて日本は世界でもっとも成功した社会主義国家と言われるほど平等な社会でした。相続税も金持ちには過酷と言われるほど高率で、三代目には相続した財産がゼロになるといわれたこともあります。
 この平等の名残は現在にも続いており、所得配分の均等さを示すジニ係数という数字が日本の平等さを示しています。
 ジニ係数とは社会の所得格差が大きいほど数字が1に近付き、小さいほど0に近付くという性質をもった係数で、日本は世界でも最小の部類に属する格差のない社会になっています。
 ところが、バブル経済崩壊が顕著になった1990年代から、日本は知らない間に格差が拡大する社会になってきたのです。
 この格差は大別すると、個人の格差と地域の格差になりますが、しばらく、実態を数字で紹介したいと思います。
 まずジニ係数で個人の所得格差を調べてみると、税金を引かれたり、社会保障を受けたりするまえの当初所得については、1993年の0.37から2005年には0・44まで上がっています。
 税金を引いたりして調整した後の再分配所得についても、0・31から0・32に上がっており、所得格差は拡大していることが分かります。

 原因の一つは非正規雇用の労働者の比率が、男性の場合、1995年の9%程度から2007年には17%に増大し、女性の場合も38%から50%に増えていることです。
 非正規雇用の人々の給与は正規雇用より低額ですから、格差は開くことになります。
 また、企業の労働分配率が下がっていることも要因ではないかと思います。これは企業の収益のうち、労働者に賃金として支払われた金額の比率ですが、1996年の78%から2004年には73%まで5%も下がっています。
 もちろん企業も設備投資をしたり研究開発をして競争力を高める必要はありますが、従業員にとっては恩恵が回ってこないという印象になります。

 その結果、貯蓄なし世帯が、1987年には3・3%だったのですが、2005年には23・8%に急増しています。4分の1の世帯は貯蓄なしで生活しているという状態です。
 その反対に生活保護を受ける1992年には約60万世帯でしたが、2006年には107万世帯と1・8倍に増加しています。
 そして、生活苦だけが原因とは言えないにしても自殺者数が1990年には21346人でしたが、2006年には32155人と1万人以上も増え、痛ましい社会になっています。

 第二の格差が地域格差です。これは地方に生活しておられる方は実感しておられると思いますが、いくつかの数字をご紹介したいと思います。
 まず所得ですが、2004年には1位の東京と47位の沖縄では2・3倍の開きがありました。
 有効求人倍率もトヨタ自動車などの効果で日本一の愛知と最下位の沖縄では6・3倍も開いています。そして給料についても東京と沖縄の開きは1・8倍にもなっています。
 こういう話題を取り上げると、物価が違うという反論がありますが、家賃を除いた物価の差は1・1倍しか開いていないので、実質的にも格差は大きいのです。

 どこに原因があるかを簡単に説明することは難しいのですが、政治が機能していないといわれることがあります。
 その政治について、世界でも異常といえる日本の政治の特徴は二世議員が大変に多いということです。
 調べてみますと、二世以上の国会議員は自由民主党で比率は約53%、民主党は約23%です。
 もちろん二世議員だからといって資質がどうこうという問題ではありませんが、本当に国家を何とかしたいとか、地域を何とかしたいという使命感を持って立候補しているのかについては、疑問がないわけではありません。
 仮に親ができなかった政治課題を達成したいという意欲を持っておられるにしても、他の先進諸国と比較すると異常な状態であることは間違いない事実です。
 アメリカでもジョン・F・ケネディ、ジョージ・W・ブッシュ、アルバート・ゴアなど何人かの二世議員は居ますが、それは本当の例外です。
 我々は、この辺りから日本の構造を考え直さないといけないのではないかと思います。





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