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論文

 今年は例年より6日も早い3月22日に、東京でサクラの開花宣言が気象庁から発表され、今週末は各地で花見の宴が開かれると思います。
 ところで今日は「さくらの日」なのですが、理由は24節気をさらに3等分した72候という暦があり、その一つの「桜始開(さくらはじめてひらく)」が3月26日から30日の間のいずれか一日になるということに由来します。
 しかし、もう一つ傑作な理由があります。
 サクラの3と9をかけると27になるという語呂合わせです。
 そこで今日は「さくらの日」に因んで日本の国花であるサクラについて面白そうな話をご紹介させていただこうと思います。

 まずサクラという名前ですが、いくつかの説があります。ひとつは古事記にも登場する「木花咲耶姫(コノハナサクヤヒメ)」を起源とする説です。
 「コノハナサクヤヒメ」は天孫降臨で日向国に降り立った「ニニギ」の妻となって、海幸彦の「ホデリ」、山幸彦の「ホオリ」、そして「ホスセリ」の3人の子を産みますが、その名前は花が咲くように美しい女性という意味で、霞に乗って富士山の上空から花の種を撒いたという伝説もあり、その名前からサクラという言葉ができたと言われています。
 もう一つの説は、サクラの「サ」は穀物の神様を示す言葉で、「クラ」は神様が座る場所を意味する言葉です。
 したがって、サクラは稲の魂が宿る木とされ、その開花の具合に合わせて種を撒く時期を決めたり、稲の作柄を占っていたといわれます。
 そこで農民が今年は豊作か凶作かを占うために、食べ物や飲み物を持ってサクラの花の下に集まる「春山入り」とか「春山行き」という行事があり、これが花見の起源になったといわれています。

 この花見は、ブラジルで日系人が行っていることを例外として、日本独特の行事ですが、平安時代以前は野生のヤマザクラを鑑賞するのが普通でした。
 例えば、『日本書紀』には持統天皇が、当時からサクラの名所であった吉野山を訪れたという記述があります。
 ところが平安時代になって、植えられたサクラを鑑賞するようになり、西暦812年に嵯峨天皇が御所の南殿に植えさせたサクラを眺める花見の宴を催し、これが一般には最初の花見とされています。
 さらに桃山時代になって、武士も花見をするようになり、現在の暦では1598年4月20日に豊臣秀吉が京都の醍醐寺で開いた花見は大名など約1300名が集まった豪華な宴で有名になりました。
 これらはいずれも貴族や武家など支配層の文化だったのですが、江戸時代になり、都会の一般庶民が花見を行うようになります。
 その背景には、江戸の都市計画の一環として、隅田川沿いの向島、飛鳥山、御殿山など各地にサクラの植樹をしたことがあります。例えば、8代将軍徳川吉宗は、1720年、飛鳥山に1270本のサクラを植えたという記録が残っています。
 また、放火などの多かった世相を安定させるためにも、花見を推奨したため、一気に国民行事になっていきました。
 それは文政10(1847)年に『江戸名所花暦』という花見の名所を紹介する案内所が出版されていることからも分かります。

 日本の国花は「サクラ(ヤマサクラ)」と「キク」ですが、日本だけに繁殖しているわけではなく、北半球の温帯から暖帯に広く分布しています。
 日本に自生しているサクラは、「ヤマザクラ」「エドヒガン」「マメザクラ」「ミヤマザクラ」など9種類ですが、そこから園芸品種として育成されたサクラは360種類にもなります。
 しかし、現在の日本にあるサクラの80%はたった一種類「ソメイヨシノ」です。
 その起源は、伊豆半島に自生していたオオシマザクラ、韓国の済州島の王桜などの説がありましたが、最近のDNA解析により、江戸の染井村の植木職人がエドヒガンとオオシマザクラを接ぎ木して作り、全国に売り出した品種という説が有力になっています。
 最初は「吉井桜」という名前でしたが、「吉野桜」と紛らわしいということで、作られた場所の地名をとって、「ソメイヨシノ」という名前になりました。
 このソメイヨシノは、すべて接ぎ木によって作られたクローンで、全国に植えられているソメイヨシノの親は、たった1本のサクラですが、花がよく咲く上に葉よりも先に咲くので見栄えがいいし、成長が早いということで、江戸末期から急速に日本全国に普及し、日本を代表するサクラになりました。
 クローンであるために、どの木も平均気温が12度になると花が咲くという同じ性質を持っており、その結果、気象庁の開花予想に使われるようになっています。

 しかし、ソメイヨシノには問題があります。F1といわれる一代交雑種であるために結実せず、すべてクローンで増殖させます。
 その結果、ヤマザクラなどは数百年の古木がありますが、ソメイヨシノは60年寿命説が存在するように、樹木としては短命です。
 もちろん、東京の砧公園にある1935年に植樹されたソメイヨシノ、千葉県野田市の清水公園にある「刧初(ごうしょ)の桜」など、100年を越える木もありますが、一般には短命です。
 また、大気汚染に弱い、テング巣病など病原菌に感染しやすいなどの問題も指摘されています。
 最大の問題は、ソメイヨシノの責任ではありませんが、全国でサクラブームが発生し、桜並木などのように一種類の木が多数植樹されると生態系の多様性を損ないかねないということです。
 いよいよ花見のシーズンになりますが、花より団子でお酒を飲み、料理を食べるだけではなく、日本の文化とサクラの関係、サクラと自然環境の関係などを考えながら花見をされると、花見も一層興味深い行事になると思います。





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