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論文

 先週は春休みには美術館へということで、絵画の贋作の話をさせていただきましたが、今日はもうひとつの人気の場所・動物園に関係する話を紹介させていただきます。
 それは今日が日本で最初の動物園である上野動物園が開園した日だからです。
 東京の上野にある上野公園は、三代将軍徳川家光のときに、江戸の鬼門を封じる目的で寛永寺が建てられた場所です。
 ところが、1868年から69年、江戸から明治に移行するときに発生した戊辰戦争で、江戸幕府側の彰義隊がここに立てこもり、その結果、建物が焼け落ち、一帯は焼け野原になっていました。
 明治政府は、ここに医学校と病院を建設する予定でしたが、その教頭として来日していたオランダの医者アントニウス・ボードウィンが視察して、ここは公園として残した方がいいという進言をしたため、明治政府は1873年に公園に指定し、76年に恩賜上野公園、すなわち明治天皇から賜った日本最初の都市公園が開園しました。
 そして6年後の1882(明治15)年の今日3月20日に、日本最初の上野動物園がここに開園したというわけです。

 上野動物園は日本最古、飼育されている動物の種類は420種類以上で日本最多ですが、ちなみに世界最古の動物園は4000年ほど前のメソポタミアのウル第3王朝のシュルギ大王が造ったものとされ、その後も3400年ほど前の古代エジプトのアメノフィス4世の時代や、3150年ほど前の中国の周の武王の時代にも存在したといわれています。
 しかし、一般に公開される現代の動物園の元祖は1752年にオーストリアのウィーンにあるシェーンブルン宮殿に隣接して造られたシェーンブルン動物園で、世界最多の動物数を誇るのはアメリカのカリフォルニア州にあるサンディエゴ動物園で約800種類の動物が飼育されています。

 そこで今日は動物園に関係して、そこで飼育されている動物の値段についての話をご紹介したいと思います。
 どなたもまず関心があるのは、一番値段の高い動物は何かということだと思います。
 そのようなことが分かるかということですが、動物の取引をしておられる白輪剛史(しらわつよし)さんが昨年出版された『動物の値段』という本で、色々な動物の取引される値段を紹介されているので、調べてみると、海に生息している哺乳類の「シャチ」がもっとも高価で、推定1頭1億円です。
 内訳は相手国の業者に支払う料金と輸送料金が合わせて5000万円、仲介する動物商の手数料が5000万円だそうです。
 大儲けのようですが、輸送は航空機に乗せて大量の水で体を湿らせながら運ぶので、手間がかかるし、動物保護団体の批判もあるので、それほどいい商売ではないというのが白輪さんの意見です。
 シャチはクジラの一種で、国際自然保護連合(IUCN)の分類ではLR(ローリスク)、すなわち絶滅の危険性は低いとされていますが、一部の地域では水族館の需要に応じて捕獲しすぎて減少しはじめています。
 そのため、カナダでは絶滅危惧種法で保護していますし、日本の水産庁も希少種に登録しています。
 さらに通称ワシントン条約と呼ばれる「絶滅のおそれのある野生動植物の種の取引に関する条約」では規制の対象になっています。
 そのような動物を買うことが出来るのかと疑問に思われると思いますが、輸出する立場の国が許可をすれば売買は可能なのです。

 そこで1992年に開館した名古屋港水族館が世界最大級の屋外水槽を備えた新館を2001年に開館するのに合わせて、名古屋市のシンボルでもある「シャチ」を目玉にしようとロシアの捕獲業者に1頭約1億円で依頼しました。
 しかし、2年間かかっても捕獲できず、動物保護団体からの反対運動もあり、あきらめることになりました。
 ところが、現在、名古屋港水族館には「クー」という愛称の「シャチ」が泳いでいます。
 これは和歌山県の太地町(たいじちょう)にある「町立くじらの博物館」から5年契約で借りたものです。
 ちなみにレンタル料は年間1億円と言われていますので、ちょっとしたサッカー選手並みです。
 ご参考までに、人気のあるパンダも中国から借りているものがほとんどで、これも1頭年間1億円だそうです。

 このように取引が少ない動物の値段はあまり明らかにはならないのですが、2001年に経営破綻したシーガイアのグループが所有する「フェニックス自然動物園」を宮崎市が買収することになり、動物の買い取り価格が公開され、多くの動物の値段が明らかになりました。
 もっとも高価だった動物がメスのオランウータンで500万円でしたが、これはワシントン条約で取引が厳しく規制されているからです。
 そして意外だったのがライオンでオスもメスもそれぞれ8万円でした。なぜ百獣の王が安いのかというと、ライオンは大変に多産で動物園でも次々に繁殖する一方、エサ代がかかるので、それほど高価にならないというわけで、個人で買いたいという方でも数十万円で買うことが出来るそうです。
 このライオンの繁殖が象徴するように、現代の動物園は一般の人々に世界の様々な動物を見せるという役割だけではなく、絶滅が危惧される動物の遺伝子を保護する役割が重要になっています。
 そして実際、サンディエゴ動物園で飼育されているシロオリックスのように、動物園にしか生息していない動物も出現しています。
 1993年に国際動物園長連盟が今後の動物園の役割をまとめた小冊子を発行していますが、そこでは環境教育と自然保護を主要な目的としています。
 春休みに動物園に行かれる方も、このような視点から見学されると別の面白さがあるのではないかと思います。





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