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論文

 大晦日に年越し蕎麦を食べるという風習は現在も残っていますが、江戸時代には毎月の月末には晦日蕎麦と言って、蕎麦を食べていたそうです。
 そこで日本麺業団体連合会が毎月の月末を「そばの日」と制定し、今日はその「そばの日」です。
 そこで蕎麦について、色々とご紹介したいと思います。
 なぜ江戸時代に月末に蕎麦を食べることになったかについては、様々な説がありますが、代表的なものとして「月末に蕎麦を食べれば来月も細く長く無事に過ごせる」「蕎麦は切れやすいので、今月の苦労を切り捨てる」、また金細工の職人が散らばっている金粉を集めるのに練った蕎麦粉を使って集めていたので「月末に集金に行くのに縁起がいい」など、いずれにしても縁起をかついだ理由のようです。

 それでは日本では、蕎麦はいつ頃から食べられていたのかというと、縄文時代に朝鮮半島を経由して蕎麦の種が渡来しており、実際、富山県の現在では南砺市に合併された利賀村の矢張下島遺跡で縄文時代の地層から蕎麦の花粉が発見されていますし、高知県土佐市の9330年前の地層から栽培された蕎麦の花粉が発見されており、1万年の栽培の歴史があるのではないかと推定されています。
 また722年の『続日本記』にも蕎麦についての最古の記録があり、救荒作物、すなわち凶作のときの対策として栽培する作物として推奨されていたようで、古代から日本の食生活には浸透していたものと思われます。

 しかし、初期の料理方法は蕎麦の実の皮を剥いて水に浸け、とろ火でお粥のようにして食べていたようですが、13世紀になって、中国留学から帰国した東福寺の開基である聖一国師(しょういちこくし)が水車を利用した挽き臼で製粉する技術をもたらしました。
 しかし、当初は蕎麦粉を熱湯で練った「蕎麦掻き」や「蕎麦団子」「蕎麦焼き餅」が中心でした。そして現在の細く切って食べる「蕎麦切り」は16世紀後半の文献に出てきますので、16世紀前半くらいには登場していたのではないかと推測されています。

 そして、関東の蕎麦、関西のうどんと言われるように、蕎麦は江戸っ子の食べ物の印象が強いのですが、江戸は16世紀から17世紀にかけて建設された新しい都市のため、多数の労働者が集まり、そのための安い食事として流行し、1644年には浅草に屋台の蕎麦屋が登場しています。
 また1686年には幕府から、火事を防止するために「うどんや蕎麦切りなどの火を持ち歩く商売」に対して禁令が出されており、すでに持ち歩きの屋台の蕎麦屋が登場していたことがわかります。
 ちなみに、浅草の屋台の蕎麦の値段は1杯6文でしたが、その時期の大工さんの日当が86文でしたので、現在の日当を1万5000円とすると1000円くらいになります。これは現在の大工さんの日当が上がったのか、当時の蕎麦が高かったのか分かりませんが、それほど安い食事でもなかったようです。

 現在の日本では、そば粉に換算して一人一年に640グラムほどを消費していますが、明治20年頃には3・6倍の2300グラムほどを食べていましたから、4分の1近くに減ってきたのが実情です。
 そして生産も戦前までは国産がすべてでしたが、現在、国産は20%程度で、80%近くは輸入しており、その80%強は中国から、15%程度はアメリカから輸入しており、食料全体と同様、蕎麦も自給率は低調です。

 植物としての蕎麦の原産地はロシアのアムール川の上流地域からバイカル湖に至る地域という説と、中国の雲南省という説がありますが、その両方から世界各地に伝播していったのではないかと言われています。
 実際、世界の古代エジプト文明、メソポタミア文明など四大文明地帯でも栽培されていた痕跡があるそうです。
 現在、栽培されている蕎麦は大別すると、我々が日常食べている蕎麦の原料である「普通種」と「ダッタン種」といわれる2種類に大別されます。そして最近、この「ダッタン種」が注目されているのです。
 ダッタン蕎麦は普通種よりも苦みが強いのが特徴です。栄養成分では大差が無いのですが、唯一、ルチンの含有量に大きく差があり、ダッタン種は普通種の100倍のルチンを含んでいます。
 植物にはフラボノイドと総称される色素成分があり、4000種類ほどが知られていますが、その一種がルチンで、毛細血管を強くし、血圧を降下させ、脳溢血を防ぐ効果があるとされています。
 ただし、日本ではダッタン種は「苦蕎麦」とも呼ばれて、あまり蕎麦にして食べないのですが、蕎麦茶としては販売されているものがあり、血圧の高い方は試されるといいかも知れません。

 最近、定年で退職される団塊世代に「そば打ち」が人気急上昇中です。全国麺類文化地域間交流推進協議会(通称:全麺協)によると、全国に蕎麦打ち道場が300以上、蕎麦打ち修行をする人が約50万人もおられ、一部には蕎麦屋を開店する方もおられて話題になっていますし、そば打ちセットも売れ行きも順調だそうです。
 この人気に対応して、全麺協では「素人そば打ち段位認定制度」を設け、初段から最高五段までの認定を行っていますが、日本人の資格志向にぴったりで人気です。
 三段まで到達し、さらに上位を狙っている友人がいますが、毎日、練習をしなければ上達しないということで、毎朝出勤前に蕎麦打ち修行をしており、たまに遊びに行くと目の前で打ってご馳走してくれます。
 美味しい蕎麦は「3たて」と言って「挽きたて、打ちたて、茹でたて」といって、確かに美味しいのですが、毎日、食べなければならない家族の心情は複雑のようです。
 それほどお金のかからない趣味で結構ですが、新たに修行しようと思われる方も適度にされるのが良いのではないかと思います。





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