TOPページへ論文ページへ
論文

 丁度130年前の1877年の今日はエジソンが円筒式の蓄音機フォノグラフを発明した日といわれ、12月6日は日本オーディオ協会によって「音の日」に制定されています。
 実際に特許を提出したのは1877年12月24日で、特許が成立したのは翌年の2月19日ですが、12月6日にニューヨーク州のメンロパークのエジソンの研究所で実演をしたということで、この日がフォノグラフの発明の日とされているわけです。
 エジソンから器械の試作を依頼されていた技師のジョン・クルージーが「この器械を何に使うのか?」質問したとき、エジソンは「会話の録音に使う」と答えています。
 そして翌年1878年の「ノース・アメリカン・レビュー」6月号にフォノグラフの将来の用途として 1)速記の代用 2)本の代読用 3)弁論の練習 を最初の3項目として挙げ、やっと4番目に音楽の再生、8番目に語学の練習を挙げています。
 重要な順番に示したとは限りませんが、初期のフォノグラフの音質を考えると音楽の再生には適していないと思ったのも無理はありません。
 しかしその後、レコードは音楽の再生と語学の練習にしか使われていませんから、あのエジソンにしても、技術の予測は困難だということを示すエピソードです。

 これはエジソンが30歳の時の発明ですが、最初に特許を取ったのは1868年の21歳のときで、電気投票記録機でした。これは議場で議員が段上の投票箱まで行かないで、座席のスイッチを押すだけで投票が出来、その結果も直ちに表示される装置でした。
 エジソンはこれで大儲けできると各地の議会事務局に売り込みに行ったのですが、どこも相手にしてくれませんでした。
 そしてワシントンの国会の委員会で実演したとき、委員長から「お若い方、こういう装置こそ、我々が欲しくないものなのだ。君の発明は少数党が議会に働きかける唯一の希望を打ち砕くものだ。多数党にしても、いつかは自分たちも少数党になるかも知れないと思っているから、こういう変革には賛成しないのだ」と言われたという記録が残っています。
 当時の議会では少数党の重要な戦術は牛歩戦術で、投票に延々と時間をかけて審議時間を減らし、法案の成立を阻止していましたので、一瞬にして賛否が決まってしまう器械などはとんでもないということだったのです。
 エジソンは帰り道に深く反省し、今後は商業的な需要があるものだけを発明しようと心に決めたと言われていますが、そのエジソンにしても、蓄音機の商業的な需要は見抜けなかったということです。

 このような思惑違いは至る所にあります。例えば、真偽の程は不明ですが、IBMの資金援助によって1944年に「ハーバード・マーク1」というコンピュータを完成させたハワード・エイケンは「このような計算機が6台あれば、アメリカ合衆国全体の計算需要に対応することができる」と言ったと伝えられています。
 ちなみに「ハーバード・マーク1」の数十万倍の計算能力があるパーソナル・コンピュータは2007年度中に2億台が出荷される予定です。

 ノーベル賞を創設したアルフレッド・ノーベルが発明したダイナマイトも、その例だと思います。イタリアの化学者アスカニオ・ソブレロが1846年にニトログリセリンを発明したのですが、これはアンリ・ジョルジュ・クルーゾー監督の名作「恐怖の報酬」でも分かるように、振動で爆発してしまい、扱いが困難でした。
 そこでノーベルがニトログリセリンを珪藻土に染み込ませて安全なダイナマイトを1866年に発明し、さらに点火する雷管も発明しました。
 これは土木工事で大量に使用され、ノーベルは大儲けしましたが、一方で戦争でも使用されて多数の人々を死傷させるという本来の目的ではなかったことに使われることに心を痛めてノーベル賞を創設したという神話が伝えられています。
 最近の研究では、ノーベルも武器に使われることは十分に予想していたと言われていますが、少なくとも第一の目的ではなかったということです。

 その逆もあり、期待していなかったような発見を有効に応用して大成功というものも多数あります。
 有名な例はペニシリンです。イギリスのアレキサンダー・フレミング博士がブドウ球菌を培養しているときに混ざってしまったアオカビがブドウ球菌の繁殖を阻止しており、そのシャーレを棄てようとしたのですが、思い付いて抗生物質にしたというわけです。
 ポストイットも有名です。アメリカの3Mの研究者スペンサー・シルバーが強力な接着剤を開発する研究をしていたときに、接着力が大変に弱い材料を1968年に作ってしまったのです。
 最初は利用方法が見つからなかったのですが、同僚が本の栞にすることを思い付いて、製品にしたのです。最初はまったく相手にされなかったのですが、一般の顧客に配布したところ世界中に広まる大ヒット商品になったというわけです。
 ちなみに頭のところに様々な色が付いているポストイットは日本人のアイディアだそうです。

 セレンディピティという言葉があります。これは「オトラント城奇譚」の作家として名を残しているホレス・ウォルポールが1754年に造った単語ですが、本来目指している目標とは別の価値を発見する能力です。
 物事を見るときに、どの視点から見るかが結果の80%を決めているという言葉もあります。何気ない日常をセレンディピティで見直すと色々と発見があると思います。





designed by BIT RANCH / DEGITAL HOLLYWOOD
produced by Y's STAFF
Copyright(c) Tsukio Yoshio All Rights Reserved.