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論文

 112年前の1895年11月8日は、ドイツの物理学者ヴィルヘルム・コンラート・レントゲンがX線を発見した日です。
 これがX線と名付けられたのは、レントゲン自身も正体が分からなかったので、数学で未知数を表す「X」を使ったのですが、1912年にミュンヘン大学の同僚であったマックス・フォン・ラウエによって電磁波であることが明らかにされました。
 この発見によりレントゲンは1901年にノーベル物理学賞の第一号を受賞していますが、これは異例のことです。
 科学分野のノーベル賞は普通、因果関係がはっきりした内容に与えるからです。例えば、湯川秀樹博士はパイ中間子の存在を1935年に論文として発表していますが、ノーベル物理学賞を受賞したのは1949年です。
 第二次世界大戦中ということも影響したのですが、イギリスのセシル・パウエルの研究チームが1947年に実験によりパイ中間子を発見して実在を証明したおかげで受賞できたのです。ちなみにパウエル自身も、この業績により1950年にノーベル物理学賞を受賞しています。

 当初、X線は正体不明でしたが、発見の直後からX線写真として医学に多大の貢献をしたので、1901年にノーベル賞が授与されたと言われています。
 実際、現在の日本では年間3億枚、すなわち国民1人につき平均2・3枚のX線撮影が行われており、そのおかげで多数の生命が助かっているわけです。
 しかし、レントゲンは謙虚な人で、大学の同僚のアルベルト・フォン・ケリカーが提案してX線をレントゲン線と呼ぶようになったのですが、自分ではそれを好まず生涯X線と呼び、また、科学の成果は万人に寄与すべきだという信念で特許も取りませんでした。
 本人は1923年にガンで死亡しますが、X線を浴びすぎたためだと言われ、一身を犠牲にして人類に貢献した立派な人だと思います。

 X線に匹敵する貢献をする装置は約80年後に登場します。CTスキャナー(コンピュータ断層撮影)です。
 これは様々な方向からX線を照射して、その情報をコンピュータで合成計算して身体の断面の画像を作成する方法です。
 原理は1963年にアメリカのアラン・コーマックが発表していたのですが、1967年にイギリスのゴッドフリー・ハウンズフィールドが装置を考案し、1972年に製品として完成させました。
 初期の装置では撮影に5分、それを画像にするのに、当時の最高速のコンピュータで2時間30分もかかったそうです。
 しかし、その医学への貢献は素晴らしいもので、2人は1979年にノーベル生理学医学賞を受賞しています。

 この発明にはビートルズが多大な貢献をしています。
 ビートルズのレコードはEMIが発売していたのですが、CTスキャナーを開発したハウンズフィールドはEMIの研究員で、ビートルズによる多額の印税でEMIが潤い、潤沢な研究費を使うことができたために研究がはかどったからです。
 しかし、CTにはX線の被爆量が多いという問題があります。普通のX線撮影では1回につき人間が浴びる放射能は自然界から浴びる放射線の2日分程度ですが、CTスキャナーの場合は撮影に時間がかかるため、その400倍の放射線を浴びることになります。したがって若い人には慎重に利用した方が良いとされています。

 それを克服する装置がMRI(磁気共鳴映像法)です。
 これは初期にはNMR-CTと呼ばれていたように、NMR(核磁気共鳴)という原理を応用したコンピュータ断層撮影ですが、この原理自身は1946年に発見され、その発見者であるエドワード・パーセルとフェリックス・ブロッホは1952年のノーベル物理学賞を受賞しています。
 これによって人体の断面を撮影できるという原理は1972年にポール・ローターバーが発明し、その後、レイモンド・ダマディアンやピーター・マンスフィールドが装置を開発し、ローターバーとマンスフィールドは2003年にノーベル生理学医学賞を受賞しています。

 MRIの装置が実現してからノーベル賞の受賞まで30年もかかっているのは、科学者の間で優先権争いがあったからだと言われています。
 現在では原理を発見したのはローターバー、実際の撮影法に貢献したのはマンスフィールドということになっていますが、ローターバーは謙虚で無欲で特許を取らなかったため、特許はダマディアンが取得するという複雑な事態になっています。
 そのような事情は別にして、MRIは放射線を利用しないために被爆がないとか、造影剤を用いなくても血管が撮影できるなどの利点がありますが、強力な磁場で撮影するため、ペースメーカーなどの金属製品が体内にあると利用できないとか、化粧品や入れ墨は鉄分を含むため火傷になるなどの問題点もありますし、実際の撮影では耳栓をする必要があるほど大きな騒音の中でCTよりも長い時間を耐えなければいけないという弱点もあります。

 これ以外にも、人体の表面温度を一瞬にして測定し、乳ガンの診断や末梢血管の血流の異常を診断できるサーモグラフィ、超音波を照射して、その反射で内蔵の様子を画像にするエコー検査など、肉眼では見ることの出来ない対象を切開などしないで見ることのできる技術があります。これらは非破壊検査と呼ばれますが、そのおかげで、人類の寿命は延びているというわけです。





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