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論文

 先週の8月10日に農林水産省が2006年度の日本の食糧自給率を発表しましたが、40%を割って39%になったということです。
 これはコメが不作であった1993年度の37%以来の40%割れですが、戦後の傾向を調べてみると、1960年度の79%からひたすら下がり続け、70年度に60%となり、90年度に50%を切り、98年度に40%になり、以後、40%を維持していたのですが、昨年度、ついに40%を切ってしまったというわけです。
 主要な食品の自給率についても、コメが94%、野菜が76%、魚が59%、畜産物が16%、小麦が13%という状態です。
 これではいけないということで、平成15年の「食料・農業・農村基本計画」で自給率を45%にまで引上げるという目標を掲げていたのですが、その効果もなく、今回の発表のときに記者会見した農林水産省の総合食料局長も「危機感を持っている。自給率に大きく影響を与えるコメ、飼料作物、油脂、野菜に対策を集中する必要がある」と説明していますが、具体策はないままです。

 この60%以上自給できていない食料を海外から輸入するために、日本は昨年だけでも7兆4000億円以上使っていますが、食料自給率が下がって行くと様々な問題が発生します。
 第一は世界全体の食料の値段が高騰しているため、食品の値段が上がって行くことです。
 例えば、今年5月に国内で販売されている果汁飲料が値上げになりました。果汁100%のジュースで1リットルにつき20円の値上げです。これは過去2年で輸入しているオレンジ果汁の値段が3倍になったためです。
 また、今年6月に「さぬきうどん協同組合」加盟店がうどん1杯につき10円から20円の値上げをしましたが、原料の小麦粉や天ぷら油が値上がりしたためです。
 さらに、大手マヨネーズ会社も今年6月から家庭用や業務用のマヨネーズを10%値上げしましたが、これも原料の食用油が10年前の1・5倍に値上がりしたことの波及効果です。
 仮に今後5年で食料の輸入価格が平均して2倍になるとすると、輸入に必要な資金は15兆円にもなることになり、それが値段に反映すれば生活に大打撃となります。

 この原料の値上がりの原因の一つは、最近のバイオエタノール・ブームです。
 ブッシュ大統領が昨年1月31日に行った「一般教書演説」で、バイオリファイナリー・イニシアティブ、すなわちバイオマスを原料とするエタノール燃料生産を推進すると発表、さらに今年1月には、2017年までにバイオエタノールの生産を拡大し、ガソリン消費量を2割削減すると発表し、世界がバイオエタノールに向けて動き始めました。
 この原料は現在のところ、サトウキビ、トウモロコシ、小麦など食料や飼料が中心ですが、そのためにブラジルでオレンジやグレープフルーツの畑がサトウキビに転用され、果汁が品不足になり、またトウモロコシや小麦もエタノールの原料として需要が急増して取引価格が値上がりし、それらを原料とする製品が影響を受けているというわけです。
 実際、トウモロコシのアメリカでの先物価格は昨年9月には1ブッシェル(約25キログラム)2・3ドルだったのですが、今年1月末には4ドルと、わずか4ヶ月で1・7倍になりました。

 もう一つが、ロシアや中国の経済成長が順調で好景気となり、食料の需要が増大していることです。
 中国は人口13億人と言われていますが、これは世界の人口の20%です。ところが、FAO(国連食糧農業機関)の統計によると、中国の2005年の豚肉消費は世界の56%にもなっています。世界の半分以上は中国で消費されているのです。
 1960年代から70年代は18%程度、80年代でも30%程度でしたから、一気に増えてきたことになります。
 同様に、野菜は70年代には世界の17%程度でしたが、現在では48%になり、水産物も10%前後から33%に増大しています。

 このような需要の増大のため、かつて食料の輸出国であった中国は、現在では大輸入国に変わり、世界で食料を調達しています。
 その一例が日本からの輸入です。今年4月に安倍首相と中国の温家宝首相の首脳会談で中国へのコメ輸出の再開が合意され、7月下旬から新潟県の「コシヒカリ」や宮城県の「ひとめぼれ」が輸出されました。
 これは中国産のコメの10倍から30倍の値段ですが、中国の金持ちに飛ぶように売れています。
 なにしろ中国で年収1000万円以上の人数は日本以上だと言われていますから、それらの人々が贅沢をしだしたら、またたく間に売れてしまうというわけです。
 それ以外にも、日本から海外への食品輸出は、2002年と2006年を比較すると、サバが22倍、イチゴが15倍、スケトウダラが8倍、サケマスが5倍という勢いで増えていますが、その大半が中国への輸出です。

 食料の61%を輸入する一方で、一生懸命に輸出をしているという日本の農業の姿も不思議ですが、中国やロシアやインドなどBRICs諸国がさらに豊かになっていけば、仮に15兆円の資金を用意しても、食料は購入できないという時代が到来することは確実です。
 そして、この自給率の急激な低下の主要な原因は日本人の食生活の変化にあり、とりわけコメの一人当り消費量が、この40年間で半分になったことが影響しています。
 食料が必要なだけ輸入できない時代を想定して、食生活を変える準備を始めるべきだと思います。





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