TOPページへ論文ページへ
論文

 今日はバイオエタノールについて紹介させていただきますが、最初にバイオエタノールを理解するための3つのキーワードをから、説明したいと思います。
 第一のキーワードは「バイオ」です。普通は「生命の」「生物の」という意味ですが、今回のテーマの場合は「バイオマス」を省略した言葉です。
 これは生物に由来する資源という意味で、具体的には木材、草木、穀物などで、それらを原料にして作るアルコールが「バイオエタノール」です。
 第二は「リニューワブル」です。現代社会が利用しているエネルギー資源の大半は石油、石炭、天然ガスですが、これらは地球上で何千万年から何億年かけて作られた資源なので化石燃料と呼ばれ、使い切ってしまうと、それで終わりです。
 しかしバイオマスは木でも草でも、太陽エネルギーが存在するかぎり、何度でも作りだされる資源です。そのようなエネルギー資源を「リニューワブル・エネルギー(再生可能資源)」といいますが、これがバイオエタノールに期待が集まっている理由のひとつです。
 第三は「カーボン・ニュートラル」です。エタノールも石油などと同様に、燃やすと地球温暖化に影響する二酸化炭素を排出します。ところがバイオマスに含まれている二酸化炭素の元になる炭水化物は、もともと空気中にあった二酸化炭素を植物が水と一緒にして酸素と炭水化物に変換したものですから、燃やしても二酸化炭素は増えないという計算になります。この状態をカーボン・ニュートラルと言い、これもバイオエタノールが期待されている理由です。

 2005年にアメリカのバイオエタノールの生産量がブラジルを抜いて世界一になりましたが、それ以前はブラジルが世界の40%近くを生産していました。
 そして本格的な生産を開始したのもブラジルが最初で、すでに1930年代から政府が推進しています。
 なぜブラジルが熱心かということですが、ブラジルは世界の鉄鉱石の22%、ボーキサイトの12%、マンガン鉱の12%を生産する資源大国ですが、唯一の弱点が石油資源に恵まれないことでした。
 そこで1931年には公用車に10%のエタノールを混合したE10ガソリンを使用するなどの取組みを始めたのです。
 ところが1939年に国内に油田が発見され、一時は停滞したのですが、オイルショックで対外債務が増大したため、1975年に国家アルコール燃料計画(ProAlcool)を策定し、本格的にバイオエタノールを普及させていくことになり世界の先頭を進むようになったのです。まさに「家貧しくして孝子出ず」というところです。

 2006年に世界のバイオエタノール生産は5000万キロリットルで、アメリカが38%、ブラジルが33%、EU全体で9%、中国が8%、インドが4%、ロシアが2%という状態ですが、これを見ると、世界の大国、とりわけBRICsが熱心だということが分かります。
 それに比べると、日本は世界の0・1%にもならず、また今年4月になってやっとガソリンに3%を混入したE3を利用し始めるなど、大幅に出遅れています。

 再生可能な資源を使用し、二酸化炭素の排出増加もないということでは理想的な資源のようですが、問題がないわけではありません。
 第一の問題は食糧との競合です。今年の1月にアメリカでトウモロコシの価格が過去3年間の平均の2倍になりましたし、砂糖の価格も20%以上値上がりしています。
 いずれもバイオエタノールの原料として需要が急増しているからだと言われています。実際、2006年にアメリカが世界に輸出したトウモロコシの輸出量とバイオエタノールに使用したトウモロコシの量は、いずれも5500万トンで同じ程度になっています。
 また、今年の5月に日本国内で販売されているジュースの値段が1リットルにつき20円ほど値上がりしましたが、これはブラジルでオレンジやグレープフルーツを栽培していた農家がサトウキビに転換した影響だと言われています。
 現在のところバイオエタノールの原料はトウモロコシ、小麦、サトウキビなど、人間の食糧となる資源を利用していますから、このままの状態で進めば、食糧不足や価格高騰が問題になります。
 ちなみに、日本の商社の予測では、2025年には現在の3倍の生産量になるということですから深刻な事態になります。

 第二の問題は環境破壊です。まずトウモロコシを栽培する農地を拡大するために開墾が進み、森林が減少する可能性がありますし、農薬や肥料の使用による環境汚染も問題になります。
 最近では十分に注意が払われていますが、工場から排出されるBOD濃度の高い廃液が河川などの汚染の原因になることも考えられます。

 そして食糧の60%、穀類の72%を輸入している日本にとっての問題は、そもそもアルコールにするバイオマスが十分にはないということです。
 そこで日本が開発をはじめたのが、木質バイオマスといわれる木材を原料にしたり、ワラや雑草からバイオエタノールを生産する技術です。
 今年1月、大阪の堺市に廃材からバイオエタノールを生産する商業工場が建設されました。ここでは年間4万8000トンの廃材から1400キロリットルのバイオエタノールを生産し、来年には4000キロリットルに増産します。
 また、本田技研工業はイナワラから製造する技術の開発に成功していますし、雑草や海草から製造する技術を研究している研究所もあります。
 ちなみに僕が北海道で使用しているガソリンを北海道の森林資源で生産するバイオエタノールで代替できるかという計算をしたところ、北海道の森林面積の60%で毎年成長する部分だけで可能という結果になりました。

 しかし、日本全体の石油消費を代替しようとすれば、日本の森林面積の3倍近い森林が必要ですし、世界のすべての耕地をバイオマス生産に転用しても、現在の石油消費を賄えないという計算もなされています。

 これは、どういう意味かを最後に考えてみたいのですが、石油にしろ石炭にしろ、太陽エネルギーが何千万年という単位で育成した動物や植物が化石燃料に転換されたものです。
 しかし、バイオマスはせいぜい数年の太陽エネルギーが育てた木や草を資源としますから、所詮、対抗できる量ではないのです。
 我々は、このような事実を認識しながら、地球の何億年のストックに依存した文明から、太陽エネルギーのフローで維持できる文明に転換して行く必要があり、そのためのささやかな手段がバイオエタノールであり、決して輝かしい救世主ではないということを知る必要があると思います。





designed by BIT RANCH / DEGITAL HOLLYWOOD
produced by Y's STAFF
Copyright(c) Tsukio Yoshio All Rights Reserved.