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論文

 今日は21年前にチェルノブイリで原子力発電所の事故があった日です。
 また日本では電力会社が長年にわたり原子力発電所の事故を報告していなかったということが、今年の3月から問題になっています。
 とりわけ1999年6月18日に北陸電力の志賀(しか)原子力発電所で発生した事故は大惨事になる可能性があったのですが、その情報が8年近くも公表されなかったのは重大な問題です。

 そこで今日は、原子力発電所の事故問題を取り上げてみたいと思いますが、そのためにまず原子力発電所の仕組みを理解する必要がありますので、そこから始めたいと思います。
 火力発電所は重油を燃焼させて水を沸騰させ、その蒸気で発電機を回して発電しますが、原子力発電所はウランが核分裂するときに発生する熱を利用して水を沸騰させ、同じよう発電します。
 ウランには核分裂をしないウラン238と核分裂をするウラン235があり、このウラン235を燃料にするのですが、天然のウラン鉱石にはウラン235が0・7%程度しか含まれていないので、これを3%から5%まで高めた二酸化ウランを使います。これが濃縮ウランといわれる燃料です。
 ちなみに原子爆弾に使うためには濃縮度が90%以上でなければならず、原子力発電所で使われる低濃縮のウランが核爆発することはありません。

 原子力発電機は大別すると、原子炉で発生した高圧の蒸気で直接、発電機のタービンを回すBWR(Boiling Water Reactor:沸騰水型発電機)と、原子炉で発生した高温の水を熱交換器で蒸気に変えてタービンを回すPWR(Puressurized Water Reactor:加圧水型発電機)がありますが、今日は志賀原子力発電所で使われているBWRについて説明します。
 まず燃料となる低濃縮ウランを直径10mm、長さ10mmの円筒形のペレットに加工し、これを燃料被覆管といわれる長さ4mほどの金属の筒に詰めます。次にこれを200本から300本、正方形に束ねた燃料集合体にします。
 これを多数集め圧力容器に封じ込めたものが原子力発電所の中心になる炉心部ですが、核燃料の反応速度を制御するために中性子を吸収する制御棒という装置を燃料集合体の間にはさみ、外部から出し入れできるようにします。これを抜けば原子炉が起動し、これを入れれば原子炉が停止するという仕組みです。

 問題は、原子炉内の反応を停止しなければいけないときに、制御棒が挿入できなくなることです。
 隙間に棒を挿入すること位は簡単なことのようですが、圧力容器の内部は70気圧ほどあり、そこから水や蒸気が漏れないように出し入れするメカニズムは相当複雑なものになりますし、BWRの場合は構造上、下側から上向きに炉心内に挿入しますので、制御棒が落下するという問題が発生するわけです。
 チェルノブイリ原子力発電所は特殊な構造ですが、どちらかと言えばBWRに近いもので、1986年4月26日の深夜に4基あった100万kwの原子炉のうち、1983年に竣工した4号炉の年1回の定期点検のため停止させたのですが、そのときに慣性で回っているタービンでしばらく発電するという実験をすることになり、緊急自動停止装置を解除してしまったのです。
 そして実験をはじめたところ、原子炉が暴走しはじめたので、あわてて211本あった制御棒をすべて挿入したのですが、設計に問題があったため、十分に機能せず、大型トラック100台分もある1100トンの原子炉の重い蓋を吹き飛ばし、ウラン燃料や放射性物質が大量に飛び出しました。
 その量は広島や長崎に落とされた原子爆弾の200倍の放射能に相当し、直接には31名が死亡したのですが、事故処理などに当たった86万人の軍人や労働者のち5万5000人、周辺の住民が3万人以上死亡したと推定されています。

 そこで日本の志賀原子力発電所の事故ですが、これは54万kwの発電能力があり、89本の制御棒で制御していたのですが、定期点検のときに制御棒の1本を上下する試験をしたところ、3本の制御棒が抜け落ちてしまい、1分後には臨界状態になり、制御棒を戻すまで15分間、その状態が続きました。
 しかも原子炉の圧力容器と格納容器の蓋を外した状態でしたから、臨界状態が続けば、簡単に炉心内のウラン燃料や放射性物質が外部に飛び出す危険がありました。
 この事故の場合、臨界状態になったのが局所的で、燃料の温度は150度ほどであったので、チェルノブイリの事故のようにはならなかったといわれていますが、もし爆発すれば、大きな事故になりかねない状況でした。
 実は2005年3月に志賀原子力発電所2号炉が事故を起こした場合の被害の推定がなされているのですが、それによると全員が被爆で死亡する範囲は半径26km、半数が死亡する範囲が半径45kmであり、石川県と富山県のほとんどが、その範囲内になります。

 原子力の利用については長年にわたり賛否がありますが、現実には日本の一次エネルギーの15%は原子力で供給されていますし、国内にある52基の原子力発電機によって電力の25%が供給されています。
 そして重油や石炭を燃やすよりは二酸化炭素の発生も少ないために地球温暖化の防止には貢献するので、すぐに止めるということはできないエネルギー構造になっています。
 電力会社が事故情報を隠していることはもちろん問題ですし、安全を確保するような体制を整備することも重要ですが、国民もふんだんに電気を使いながら原子力は危険だとは言えない状況です。情報公開を要求して、今後の原子力発電の方向を判断する必要があると思います。





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