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論文

 最近、スーパーマーケットの魚売場に行くと、鮭の切り身や明太子の包装に青色の楕円形のラベルを貼ったものがあります。
 よく見ると魚のマークが描かれ、英語で「Marine Stewardship Council」と書かれています。
 今日は、このマークについてご紹介したいと思います。

 昨年10月にミナミマグロ保存委員会(CCSBT)が、2007年から2011年まで、世界のミナミマグロの漁獲高を現在の1万4925トンから1万1530トンに減らし、日本への割当は6065トンから3000トンに半減させるという厳しい決定をしました。
 さらに11月27日には大西洋マグロ類保存国際委員会(ICCAT)が、大西洋でのクロマグロの漁獲高を、これまでの3万2000トンから2007年には2万9500トン、2010年には2万5500トンと8割まで減らすと決定しました。
 その翌日には、インド洋マグロ類委員会(IOTC)がインド洋でのメバチマグロの漁獲高を引き下げると発表しました。
 太平洋で獲れるクロマグロは過去30年間で7分の1に減り、このままでは2020年に絶滅するという予測も発表されているからですが、世界のマグロの30%を食べている日本人にとっては厳しいと同時に関心を持たなければならないニュースです。

 問題はマグロだけではなく、世界全体の漁業が危機に直面しています。
 FAO(国連食糧農業機関)が発表している統計を見ると、世界全体の漁業生産は2002年の1億3300万トンが最大で、2003年には1億3250万トンに減っています。
 戦後の1900万トンから、ほぼ順調に増大してきた漁業が頂点を越えたのですが、この数字のうち、養殖の魚ではない天然の魚の漁獲高は1997年の8700万トンを頂点に2003年には7770万トンまで大幅に減っており、過去10年間だけでも2倍以上に増えた養殖の魚で補っているというのが現状です。

 原因は明確で乱獲です。例えば、先程ご紹介したミナミマグロの日本への割当は6065トンですが、実際は1万トンから1万2000トンと倍近く獲っていたとも言われており、そのような問題が背後にあります。
 そこで登場したのが冒頭にご紹介した「マリン・スチュワードシップ・カウンシル(MSC)」です。これは「海洋管理協議会」と訳され、世界の漁業を適性に管理しようという目的で1999年に設立されたNPOです。
 その意図を理解するカギは「スチュワードシップ」という言葉にあります。
 これは飛行機に乗っている「スチュワード」「スチュワーデス」と同じ言葉で、管理するとか支配する役割を意味するのですが、この言葉が環境問題の分野で有名になったことがあります。
 1967年にアメリカの科学哲学者リン・ホワイト・ジュニアが現在の環境危機は人間が自然を支配する権利を神から与えられたと理解する宗教に問題の根源があるという衝撃的な論文を発表しました。
 これに対して様々な反論が発表されたのですが、その有力な意見がジョン・パスモアという学者の、人間は自然を世話するように神から任された代理人であるという考えですが、この代理人がスチュワードというわけで、MSCも神の代理人として自然を適切に管理していこうという気持を込めたものです。

 具体的には、1)過剰に漁獲して資源を枯渇させない 2)海の多様性や生産力を維持する漁業をおこなう 3)国際的、地域的な規則に従い、持続的に資源を利用出来る制度をつくる という原則を守りながら、持続可能な漁業をしている団体を専門家が調査して認証すると、その団体の漁獲したサカナやエビ・カニなどの水産物に「海のエコラベル」といわれるシールを貼ることを認め、そのシールが貼られている水産物を消費者が優先的に購入して水産資源を保護していこうという仕組です。

 2000年3月にオーストラリア西海岸の伊勢エビ漁とイギリスのテームズ川河口のニシン漁が認証を受けたのが最初ですが、現在では、世界26カ国で350品目以上になっています。
 日本では京都府機船底引網漁業連合会がズワイガニとアカガレイについて審査を受けている最中ですが、認証を受けMSCのシールを貼った製品については、スーパーマーケットの「イオン」「ナショナル麻布スーパーマーケット」「紀ノ国屋」「明治屋ストア」などで販売していますし、「パンダショップ」の通信販売でも買うことも出来ます。

 このMSCの手本になっているのが、1993年に設立された「FSC(Forest Stewardship Council:森林管理協議会)」というNPOの活動です。
 ここでは 1)森林環境保全に配慮している 2)地域社会の利益を考慮している 3)経済的に持続可能である という林業を経営している組織を認証し、その組織が産出する木材にFSCのシールを貼っています。
 世界の水産物の13%強を消費し、貿易量の18%を輸入している日本、木材についても貿易量の9%を輸入している日本に生活する我々は、MSCやFSCに関心をもって消費することが必要だと思います。





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