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論文

 先週土曜日の2月24日に種子島にある宇宙航空研究開発機構(JAXA)の種子島宇宙センターからH2Aロケットの打上げが成功し、国産の情報収集衛星「レーダー2号」が無事、軌道に到達しました。
 当初は2月15日に打上げ予定だったのですが、気象条件のために3回も延期され、今回の10分間の打上げ可能時間を逃すと、6月まで機会が無くなるということでしたので、打上げ成功後の記者会見で、JAXAの立川敬二理事長が「ほんの瞬間を狙った打上げ」と表現しておられましたが、まさにギリギリの成功でした。

 これで当初の目的であった4機の情報収集衛星が揃った訳ですが、最初にそこに至るまでの経緯を調べてみたいと思います。
 1998年8月31日に北朝鮮が「テポドン1号」を発射し、日本列島の上空を飛んで行き、第一段目のブースターが日本海に墜落し、第二段目が太平洋に落下するという騒動がありました。
 そこで3ヶ月後の1998年11月には国産の情報収集衛星を打上げることが閣議決定されました。
 そして普通のカメラのように撮影する光学式の衛星を2機と、夜間でも撮影出来るように、電波を発射して、その反射波を受けて画像を作るレーダー式の衛星を2機の合計4機を打上げることが決定されました。

 2003年3月に光学式1機とレーダー式1機の衛星が無事打上げられたのですが、残りの2機を打上げる予定であった11月の打上げに失敗し、しばらく間が空いてしまい、ようやく昨年9月に光学式1機が打上げられ、この2月にレーダー式1機が打上げられ、当初の目的の4機が揃ったというわけです。
 これらは光学式とレーダー式が対になって、北極点と南極点の上空500kmほどを通過する極軌道を回るのですが、位置が90度ずれているので、地球のあらゆる場所の上空を一日に一回は通過し、どのような場所でも一日以内に撮影することができるようになりましたが、多くの問題を抱えています。

 第一は分解能といわれる精細度の問題です。打上げられている光学式の衛星は1mのものまで識別出来るとされていますが、これは1999年にアメリカの民間企業スペース・イメージング社が打上げた「イコノス」の水準で、最新の「クイックバード」は60cmの分解能ですから、大幅に遅れています。
 そこで今回の打上げでは光学式3号という実験用の衛星も打上げ、これによって60cmの分解能の撮影を実験し、上手く行けば2009年に打上げる予定です。
 ちなみにアメリカの軍事偵察衛星は正確には不明ですが、10cm前後の分解能と推定されていますから、地上の自動車の車種まで判定出来ますが、日本の衛星ではトラックか乗用車かの判別しかできないというわけです。
 日本の情報収集衛星の撮影した写真は内閣衛星情報センターが管理していますが、完全な秘密になっており公開されません。これは所定の能力に到達せず、実際の分解能が2〜3mなので公開出来ないのだという噂があるほどです。

 第二は高価だということです。情報収集衛星を打上げることが閣議決定された1998年度から今年度まで5050億円が投入されていますし、2007年度も600億円の予算が予定されています。
 ところがアメリカでは1994年に軍事偵察衛星の技術が規制緩和によって民間への転用が可能になり、そこで先程ご紹介したようなスペース・イメージング社などが衛星を打上げて、分解能60cmの写真を一般に販売しています。
 値段表によると、ライブラリーにある、すでに撮影された写真の場合、1平方キロメートル当たり7000円で、最小単位25平方kmですから17万5000円ですし、新規に撮影しても、1回当たり200万円程度ですから、買った方が安いということになります。
 実際、アメリカ軍も機密ではない場合は民間衛星の写真を買っているようです。
 そしてさらに、維持するのにも大変な費用がかかります。このような衛星は静止衛星の上空3万6000kmに比べれば、上空500kmという低い位置を飛んでいますので、摩擦が大きく寿命が5年ほどしかありません。
 したがって2003年に打上げられた光学式1号は来年あたり寿命がきてしまいます。
 そうなると、また数百億円の費用をかけて打上げる必要があり、5年単位で数千億円が必要ということで、本当に日本が維持する必要があるかという意見もあります。

 第三の問題は解析能力です。写真を見てもミサイルの打上準備をしているかどうかを見極めるのは相当の熟練が必要で、日本にはその蓄積がなく、アメリカで訓練を受けているようですが、これも当面の問題です。
 しかし、国家安全保障の観点からは、他国の技術に依存すると、不都合な部分が修正されていたり、必要なときに確実に撮影出来るという保証はないので、やはり自国で撮影することは必要だと思いますが、あまりにも秘密扱いにせず、また本来は多目的衛星で災害対策や外交交渉にも使うという予定でしたので、もう少し公開して国民の理解を得ながら運用するべきだと思います。





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