TOPページへ論文ページへ
論文

 今日は「勤労感謝の日」で国民の祝日です。1948年に制定されたときの目的によれば、「勤労を尊び、生産を祝い、国民たがいに感謝しあう」ための日です。
 ところが、そのような精神に反するような状況が日本では発生しています。そこで今日は日本の労働事情について考えてみたいと思います。

 第一は働き過ぎというよりは働かされ過ぎの日本人という問題です。先週の土曜日11月18日に通称「過労死110番」、正式には「長時間労働・過労死・過労自殺110番」が、全国の20都道府県で一斉に電話相談を受け付けましたが、相談が殺到したようです。
 確かに日本には、そのような相談が殺到する背景があります。日本の年間労働時間の統計を見ると、1980年の2125時間から2005年には1775時間になり、25年間で350時間も減っています。1日8時間労働とすれば、約40日分が減った訳ですから、大変な変化です。
 これはオランダの1367時間、ドイツの1421時間、フランスの1535時間と比べると、まだまだ長いのですが、2000年頃からはアメリカを下回るほどになりました。

 ところが、1週間当たりの労働時間が50時間を越える労働者の比率は、日本が世界でもっとも大きいのです。
 2000年の数字ですが、日本の28・1%に対し、アメリカは20%、イギリスは15・5%でやや多いのですが、スペインは5・8%、フランスは5・7%、ドイツは5・3%、スウェーデンは1・9%、オランダは1・4%ときわめてわずかです。
 別の統計でも、日本の労働時間が長いという調査結果があります。仕事に就いている男性の1日の仕事時間は土曜と日曜も含めて、日本では7時間11分であるのに、ノルウェーは4時間56分、ドイツは5時間5分、スウェーデンは5時間17分、イギリスは5時間42分であり、日本は最長です。
 その影響もあり、日本人の睡眠時間は、最長のフランスの8時間24分に比べて7時間52分で、毎日30分以上も短いし、自由時間も、最長のノルウェーの5時間37分に比べて3時間50分と最短です。
 女性についても同様で、仕事時間は最長、睡眠時間は最短、自由時間はフランスに次いで短いという状態です。

 全体の労働時間が減っているのに、長時間労働が多いのは何故かというと、日本ではサービス残業、もしくは未払い残業といわれる、残業代を支払われない労働が多いからです。
 労働基準監督署が立入り調査をして、サービス残業の実態調査をし、それに基づいて企業が残業代を支払いましたが、東京電力で25900人に対して約70億円、中部電力で12000人に対して65億円になっています。
 それに輪をかけて、日本経団連の提言を受けて、厚生労働省が「自律的労働時間制度(ホワイトカラー・イグゼンプション)」を導入しようと検討しています。
 これは管理職手前の年収400万円以上の労働者を対象に、年収や休日確保を条件に、週40時間の労働時間規制を除外しようとする制度で、もしこれが導入されると、本来支払われるべき残業代が11兆6000億円も支払われなくなると推定されています(労働運動総合研究所)。

 別の問題としては、パートタイムの労働者の比率が高いということがあります。パートタイムの労働者の比率は1980年には8・9%でしたが、90年には13%、2000年には19・5%、そして2005年には25・3%と急増しています。
 これは国際的にどのような状態かというと、2005年の男子の場合、日本は14・2%ですが、それより高いのはオランダの15・3%だけで、イギリスが10%、アメリカが7・9%、フランスが5・3%です。
 女子も日本は42・3%ですが、これもオランダの60・9%を別にすれば、イギリスが39%、ドイツが39%と、日本は非常にパートタイム労働者の比率の高い国になっています。

 これは良い側面では、労働者の流動化を促進し、労働力を必要賭する分野が労働力を確保でしやすいということになりますが、一方では企業の業績によって簡単に解雇されるという問題にも繋がります。
 ホワイトカラー・イグゼンプションにしろ、パートタイム労働者の増大にしろ、産業の国際競争力を高めるという目的を達成するという背景がありますが、働く人の幸福が疎外されているということにもなりかねません。
 その一つの現れが日本の自殺率の高さです。これまで御説明した労働事情と関係するかは正確に分かりませんが、日本は自殺率が高い国です。
 統計の年度にはばらつきがありますが、2000年から2002年の数値によると、リトアニア、ロシア、ベラルーシ、ウクライナ、カザフスタン、ラトビアと旧ソビエト連邦に関連する国々が上位を占めていますが、日本は10位で1万人あたり2・4人です。先進諸国ではフランスが1・8人、ドイツが1・4人、アメリカが1・0人、イギリスが0・8人ですから、日本の比率が高いことが分かります。
 産業革命によって悪化した労働事情は100年以上の努力によって次第に改善されてきたのですが、現在、逆行するような動向があります。働くということの目的は何かを、もう一度考えてみる必要があると思います。





designed by BIT RANCH / DEGITAL HOLLYWOOD
produced by Y's STAFF
Copyright(c) Tsukio Yoshio All Rights Reserved.