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論文

 アメリカとロシアの共同研究グループが2003年4月から2004年5月までの約1年間、シベリアで行った研究の成果を先月発表しました。
 これはシベリアの北極圏にある湖で、精密な計測装置を使って、その湖から発生しているメタンガスの量を測定したのですが、1974年の放出量と比較すると、2000年には1・6倍に増えているという大変なことが分かってしまったのです。
 何が大変かという前に、なぜ急速に増えているかという理由ですが、この調査を行った一帯では、1970年からわずか30年間で、平均気温が2度も上がったからです。
 これはどのくらい異常なことかと言うと、大気の温度が体系的に計測されるようになった過去150年ほどで地球の大気の平均気温は0・8度しか上がっていませんし、木の年輪の幅の変化から推定した温度でも、この1000年間で1度近くしか上がっていません。
 それでも大変な事態だと騒いでいるわけですから、わすか30年ほどで2度も上がったというのは大異変なのです。
 その結果、シベリアを覆っている永久凍土が溶け出して、その下に封じ込められていたメタンが泡になって大気中に放出されてきたというわけです。

 どのような影響が発生するのかが気になりますが、メタンガスも炭酸ガスと同じ温室効果ガスですが、同じ量では、その効果が21倍から23倍にもなるので、メタンガスが空気中に増加すると、一気に温暖化が進むと推定されています。
 現在の温暖化の影響の20%はメタンガスによるのですが、そのメタンガスが増えれば気温が上昇し、さらに永久凍土が溶けてメタンガスの発生が増えるという悪循環が始まってしまうということになります。

 それにより温暖化が進むと、生態系が変化して問題が発生します。
 東京の目黒区では夕方になるとインコの大群が飛び交っていますが、インコはインドやインドネシアの鳥です。最初は飼われていた鳥が逃げ出したのですが、以前であれば冬を越せなかったのに、温暖化で生き残ることができるようになった結果です。
 これは人間への直接の被害は少ないのですが、大阪でセアカゴケグモのような毒のある動物が繁殖しているということが問題になりました。これは南洋から輸入される材木に着いて来たのですが、以前は冬に死滅していました。ところが冬が暖かくて越冬出来るようになり、最近では横浜辺りでも発見されています。このような事態になると、刺されたり伝染病が流行したりという実害がでてきます。

 さらに広範な影響は海面が上昇して低い土地が水没するという事態が発生することです。これは南極の氷などが溶けて水面が上がるのではなく、海水が膨張して容積が増え、その結果、水面が上がるのです。
 現在の予測では、最悪の場合、2100年には平均気温が5・8度上昇し、その影響で水面は88センチメートル上がるという予測がされています。
 昨年、環境問題を扱った6本のテレビ番組を制作したのですが、そのとき取材した太平洋にあるツバルという国では、大潮になると島の中心部が水没していましたし、アラスカのシシュマレフという島でも、海岸が急速に浸食されていました。
 ところが、その半年後に別の放送局が同じ場所を取材した番組を見たところ、ツバルの水没は急速に進んでいましたし、シシュマレフはついに住民全員が移住することになっていました。現実はかなりの速度で進行しているのです。

 日本も他人事ではなく、現状では満潮のときに海面下になる土地は861平方キロメートルで、そこに200万人の国民が生活しています。しかし、海面が1メートル上昇すると、海面下になる土地は2・7倍の2339平方キロメートルとなり、そこに生活する人は410万人になります。これは神奈川県と同じ面積で、人口は長野県と岐阜県の合計に近い数字です。
 それを防ぐためには防波堤や防潮堤を嵩上げする必要がありますが、その費用は20兆円程度になると概算されています。これは国と地方自治体の年間の建設予算の合計に近い数字です。
 このようなことは遠い先のように思われるかも知れませんが、昨年、瀬戸内海の小豆島にカヤックに行き、島の古老と話をしていたら、子供時代から海面が70センチメートルは上がったということでした。
 また、先月、和歌山県の古座川に行ったところ、海岸沿いの国道に延々とフェンスが張られ、景色が台無しになっていました。地元の人に聞いたところ、大波が頻繁に道路まで上がってきて通行止めになるので、それを防ぐためだということでした。
 日本でも身近に温暖化の影響が迫っているということを実感しました。

 どうすればいいかといえば、炭酸ガスやメタンガスの発生を減らすことですが、日本では、京都議定書で約束した目標がマイナス6%ですが、実際はプラス8%になってしまっており、その分も含めれば現状から14%も減らす必要があります。
 仮に世界中の国々が目標を達成したとしても、しばらくは温暖化の勢いは止まらないとも予測されています。
 開高健さんが、よく色紙に書いていた「明日、地球が亡ぶとも、僕は今日、リンゴの木を植える」というマルチン・ルターの言葉がありますが、とにかく一人一人ができることをしていくという以外に絶対的な解決策は無いと言うのが実情なのです。





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