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論文

 今年は国際標準化100年記念の年で、今月13日には記念シンポジウムが開かれ、11日から22日までは日本科学未来館、国立科学博物館、科学技術館などで展示会が開かれるなど、行事が集中しています。
 そこで今日は標準ということについて、ご紹介させていただきたいと思います。
 100年記念ということですから、100年前に何があったかということですが、1906年にロンドンで国際電気標準会議(IEC)が設立され、日本はアジアから唯一参加した国だったのです。
 1906年は明治39年で日露戦争が終わった翌年で、まだ日本は発展途上国の段階でしたから、世界で13カ国しか参加しなかった国際組織に参加したことは大変な英断だったと思います。
 現在では134カ国が参加し、発展途上国の方が多数という状況ですが、日本は2002年から2年間、東芝の技術顧問である高柳誠一さんが、その会長を務めるなど、設立時からの参加国の貫禄を示しています。

 標準というのは「自由に放置すれば、多様化、複雑化、無秩序化してしまう「モノ」や「コト」を少数化、単純化、秩序化するための約束」と定義したらいいと思いますが、その一例が鉄道です。
 鉄道の線路の幅は軌間(ゲージ)といわれ、現在、世界の標準は新幹線で採用している1435mmが主流ですが、それより広い広軌(ブロードゲージ)も4〜5種類ありますし、それより狭い狭軌(ナローゲージ)は10種類以上あります。
 ヨーロッパのように陸続きの地域では、各国が勝手な幅で線路を作ってしまうと、相互乗り入れができないなど不便が生じますので、同じ幅にしようという考えが出て来るわけです。
 そこで現在、様々な分野の標準を議論するための国際機関が設立されていますが、三大機関といわれているのが、今回100周年となった国際電気標準機関(IEC)、機械分野の標準を議論する組織から発展した国際標準化機構(ISO)、通信分野の標準を議論する国際電気通信連合(ITU)です。

 このような国際機関で議論して決める標準は法的標準(デジュール・スタンダード)と言われます。一例はファクシミリの通信方式と通信速度です。
 1976年以前は各社が独自の通信方式を使っていたので、機械の製造会社が異なると通信できないという不便な状態でした。
 そこで国際電気通信連合(ITU)が乗り出して、A41枚の送信時間が6分ほどかかるアナログ方式のG1から、3秒程度で送ることの出来るデジタル方式のG4まで4種類を決めました。これがデジュール・スタンダードの代表です。
 しかも、その内容は日本が中心となって開発した技術が基準になっています。

 ところが最近は、法的標準は旗色が悪く、事実標準(デファクト・スタンダード)といわれる方式がのし上がってきました。
 これは簡単に言えば、競争に勝った技術が標準になるという強者の論理によって決まるものです。
 古典的な例はタイプライターやコンピュータのキーボードの文字配列です。
 現在、すべてといっていいほど「クワーティ(QWERTY)配列」になっています。これは19世紀後半にクリストファー・ショールズというアメリカ人が発明したのですが、当時のタイプライターはキーを押すとバーが跳ね上がって印字する方式だったので、近くにある文字を素早く打つとバーが絡まるという欠点がありました。
 そこで続けて打つ文字は離して配列したのです。その後、より手に負担のかからない「ドボラク配列」や「トロン方式」が提案されましたが、クワーティの地位は揺るぎません。
 最近のITの世界は大半がデファクト・スタンダードです。パーソナルコンピュータのOSの「ウィンドウズ」、ウェブサイトを見るためのブラウザーの「インターネット・エクスプローラー」、インターネットの通信方式の「TCP/IP」など、一企業や一国の技術が世界を席巻しています。

 ところが最近、新しい動向が出てきました。フォーラム・スタンダードといわれるものです。
 これは業界標準と翻訳してもいいかも知れませんが、産業界の各社が事前に会議を開いて相談して標準を決めるという方式です。
 成功した例は、画像圧縮方式の「MPEG」や「JPEG」ですが、最近の話題の例は、次世代DVDの記録方式の「HDDVD」と「ブルーレイ」です。
 これは産業界が話し合ってフォーラム・スタンダードを決めようとしたのですが、結局は両陣営に2分してしまい、かつてのテープへ録画するときの「VHS」と「ベータマックス」のデファクト・スタンダード争いを再現することになりつつあります。
 世界は知的財産権を争う時代となり、この標準争いは企業の業績みならず、国の将来をかけた競争になっており、そのような視点から眺めてみても興味ある分野です。





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