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論文

 この番組で報告するため北海道の天塩川をカヤックで下ってきました(笑)。
 天塩川は北海道のほぼ中央にある天塩岳という山を源流として、日本海に注いでいる主流の延長が256kmの日本で4番目に長い川ですが、いくつか特徴があります。
 まず日本にある大きな川で北に向かって流れている数少ない川だということです。日本で一番長い信濃川も一部は北に流れていますが、全体では北東の方向に流れています。第二の利根川は南東、第三の石狩川は南西ですが、天塩川はほぼ北に向かっています。
 第二は、上流部こそ何カ所かダムや堰がありますが、途中から約160kmは人工物がない川です。そのため、かつては四○石積みの帆船が河口から180km上流の士別まで遡って人や物を運んでいました。したがって、上流と下流の文化の交流が密接にあり、流域が一体の文化圏を形成しています。
 その結果、天塩川は北海道遺産に選ばれています。北海道遺産というのは自然や文化の中から北海道を代表するものを52件選んで指定したもので、石狩川や霧多布湿原や摩周湖などの自然、五稜郭やアイヌ口承文芸などの文化、さらにはジンギスカン料理やラーメンなどの食事文化まで多彩に指定されています。
 第三は、天塩川の名前の由来に関係します。これはアイヌの人々が「テッシ・オ・ペッ」と呼んでいたので、明治になって天の塩の川という字を当てたのですが、テッシというのは魚を獲るために川の中に設けた梁(ヤナ)のことで、その梁が多い川という意味です。しかし、それはアイヌの人々が作った梁ではなくて、岩が川を横断している場所が何カ所もあり、それが梁のようだということから、そう呼ばれていたのです。そういう点でも地理学的に珍しい川です。

 この160km、すなわち約100マイルも人工物のないという特徴を活用してカヤックで下ろうというイベントが1992年から始まりました。
 最初は部分部分を下っていたのですが、2002年に一気に160kmを下る「ダウン・ザ・テッシ・オ・ペッ・スペシャル」が開かれ、400人以上が参加する大人気だったので、4年ごとに開催しようということで、今回2回目が開かれたという訳です。
 全行程160kmを下るのには5日間かかりますので、僕は4日目の一番長い40kmの区間だけ参加したのですが、やはり北海道の自然は雄大で、40kmを下っている間、途中で一部名寄本線の線路が見える以外はほとんど人工物がなく、オジロワシ、チュウヒ、カワセミ、カモ、ツバメ、アオサギなどの野鳥が飛び交っていますし、下流に来ると川幅も数百メートルになり、流石、北海道という印象でした。

 今回も270名近い人々が参加しましたが、毎日の到達地点でテントを張ってキャンプをしながらの旅です。北海道には250カ所以上のキャンプ場があり、日本でもっともキャンプ場の多い地域で、素晴らしい環境の中に無料のキャンプ場があります。
 キャンプは面倒だという人は、上手い具合にそれぞれの到着地点の公営の立派な温泉付きホテルがあり、そこへ泊まることもできるという至れリ尽くせりの環境です。
 天塩川は10の市町村を流れて河口に到達しており、今回のイベントもそれぞれの地域の方々が協力して運営しているのですが、そこで現在、それらの流域の市町村が一体となって「天塩国(てしおのくに)」を作ろうという構想が浮上しています。
 実際、江戸時代に蝦夷地といわれた北海道を6度も探検した松浦武四郎が、明治政府の役人として北海道をいくつかの地域に区分するのですが、この天塩川の流域一体は「天塩国」と命名しています。それを復活させようというわけです。

 今回の川下りの間に何人かの町長さんにお目にかかりましたが、そのような構想に大変乗り気でしたし、実は熱心な人々は「天塩国」のパスポートまで発行して準備しておられ、僕も今後の川下りのために入手してきました。

 最近、一本の大河の流域のように自然環境が一体であるとか文化が共通しているということを基準に地域を統合して行こうという「生命圏域(バイオリージョン)」という考え方が注目されています。
 平成の市町村合併が一段落し、北海道も212の市町村が180になりましたが、自然や文化を背景にしたものではなく、財政難を解決するための便宜的な合併が大半です。
 もう一度、生活を基本にした行政単位を考えることが重要だと思いますが、天塩川流域で進んでいる活動は注目に値すると思います。





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