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論文

 これまで3回にわたって、ベネチア、ナウル、カルタゴと衰退したり、滅亡したりした国家を紹介してきましたが、日本は大丈夫かと心配されている方々も多いと思います。
 そこで最近、スイスで発行されている「国際競争力年鑑」の2006年版が届きましたので、その数字などを参考にしながら、日本の現状を調べてみたいと思います。
 国力の基礎である人口と経済ですが、人口は昨年ナイジェリアに抜かれて世界10位になりました。しかし、国内総生産はアメリカに次いで2位の地位を維持していますし、購買力平価で換算しても、アメリカ、中国に次いで3位ですから、まだまだ大丈夫だと思います。
 ただし、経済成長の視点から見ると、国内総生産の伸びは2・7%で世界37位、個人消費の伸びも1・7%で世界43位と、経済全体の停滞を示しています。
 それでも失われた10年の最後の時期の2001年と比較すると、少しずつ回復してきたことが分かる数字があります。

 「世界競争力年鑑」では、毎年、世界の50数カ国を対象に、各国の競争力を比較していますが、2001年には総合順位が25位でした。それが今年は15位にまで回復し、さらに経済力では15位から13位、企業の競争力では29位から21位、社会基盤の整備では18位から2位となり、この5年間で相当回復してきたことが分かります。
 その回復を裏付ける数値も多数あり、ベンチャーキャピタルの調達のしやすさは、この5年で36位から19位、投資環境の透明度は45位から38位、企業の社会の変化への適応性は45位から20位となっています。
 これらは順位自体としては低く、十分ではありませんが、この5年で改善が進んでいることは示されていると思います。
 ただし、安心しているわけにはいかない数字もあります。産業分野ごとの生産効率を調べてみると、全体では5年で20位から19位と横ばいですが、これからの中心である三次産業は12位から21位と低下していますし、大企業の生産効率は31位、中小企業も37位と低迷しています。

 さらに心配な数字があります。三次産業の生産性を支えるのは情報通信技術ですが、今年の2月にワールド・エコノミック・フォーラム(WEF)というスイスの組織がIT番付を発表しました。
 それによると、日本は昨年の8位から16位に後退しています。参考までに、今年の順位はアメリカ、シンガポール、デンマーク、アイスランド、フィンランドの順番で、アジアでも台湾が7位、韓国が14位と、日本より上位にあります。
 それを裏付けるような統計もいくつかあります。例えば携帯電話の普及は2000年の25位から30位、コンピュータの普及も18位から20位です。
 昨年からウィニーによる情報漏洩が日本で大問題になりましたが、サイバーセキュリティが社会で維持されているかについては29位という順位です。
 もちろん、インターネットの普及が18位から7位に向上したり、ブロードバンドネットワークの料金が世界一安いというような優れた面もありますが、情報時代に十分は対応していないのが実状だと思います。

 もうひとつ日本が長期的に取組まなければならない課題は「科学技術立国」を推進することですが、これについての数字を見てみたいと思います。
 日本は国内特許でも海外特許でも取得件数は1位ですし、科学論文の数でもアメリカに次いで2位ですが、特許については、有効に利用されている特許の人口当たりの件数になると6位に後退しますし、論文では他の論文に引用される回数が重要ですが、世界全体でアメリカの46・1%、イギリスの10・3%、ドイツの9%に次いで4位の7・5%です。
 また組織ごとの順位では、1995年から2005年の10年間の合計で、東京大学が13位で上位に食い込んでいますが、以下は京都大学の31位、大阪大学の35位、東北大学が72位、名古屋大学が97位という順位です。
 日本は国家予算が縮小するなかで、科学技術予算は増加させるという政策を取っていますが、人口当たりの研究予算は、この5年間で1位から6位、人口当たりの研究者数も4位から7位と下降気味です。

 しかし、何と言っても心配なことは、若者が科学技術へ関心を示さない科学技術離れです。
 これも「世界競争力年鑑」にあるアンケート結果ですが、若者が科学に興味を持っている国の順番では24位ですし、学校で科学教育が重視されているかという順位も24位です。
 天然資源の十分ではない日本が依存できるのは知的財産ですが、国を挙げて関心を持たないと、長期的には国家の危機になりかねないと思います。





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