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論文

 このゴールデンウィークに海外へ出掛けられた方が24万3000人と,昨年を大幅に上回りました。
 このように、日本は大変な豊かな国になっており、このまま続けば幸せなことですが、本当に続くかどうか心配なこと多々あります。
 そこで今日は、他山の石、温故知新、他人の振り見て我が振り直せの精神で、歴史を振り返って日本の将来を考えてみたいと思います。
 この休みにも行かれた方が多いかと思いますが、アドリア海に面したイタリアの都市ベネチアの終末が、最近の日本と似ているところが多いので、その衰退の過程を調べながら、日本は大丈夫かと考えてみたいと思います。

 ベネチアはもともと東ローマ帝国の人々が、ゲルマン民族の襲撃を避けるために、6世紀頃からアドリア海の干潟の上に作った人工的な島に発展した都市国家です。
 大変な取引上手で、外交も巧みであったために、次第に発展し、13世紀初頭の第四次十字軍のときはコンスタンチノープル陥落に貢献しますし、1571年のレパントの海戦では、トルコ帝国の艦隊と戦ったキリスト教連合国艦隊の中心となって大勝利に貢献します。
 しかし、この頃から次第に国力が弱まり、最後は1797年にオーストリア侵攻から南下してきたナポレオンの前に降伏し、サンマルコ共和国が消滅したのです。

 この原因はいくつかありますが。15世紀までベネチアはヨーロッパ世界で絶好の位置にありました。スエズ運河もなく、アフリカを回る航路も開拓されていなかったので、アジアの香料などを持ち帰るのには、陸路で黒海や地中海沿岸まで来て、海上をベネチアに渡り、そこからヨーロッパ全体に分散していったので、膨大な利益を上げる香料やシルクの交易拠点だったのです。
 ところが、1488年にバルトロメオ・ディアスがアフリカ南端の希望峰に到達し、1498年にはバスコダ・ガマがアフリカを周回するインド航路を開拓して、地中海を経由しないでヨーロッパとアジアを直結する航路が出現してしまい、ベネチアの地位が一気に低下してしまいました。

 第二は造船技術の先頭から脱落したことです。当時の戦艦はガレー船といって、多数の人間が長いオールを漕ぐ船が中心で、ベネチアの国立造船所(アルセナーレ)は最先端の技術を誇っていましたが、オランダや北欧で帆船の技術革新が進み、その波に乗り遅れてしまったのです。
 それを象徴するような話があるのですが、ロシアのピョートル大帝が1697年に造船技術の視察に出掛けるのですが、有名であったベネチアに行かず、アムステルダムを訪問します。完全に出遅れたのです。

 どちらも今の日本に大変に似ていると思います。
 戦後、日本が発展してきたのは、ソビエト連邦と中国の前面にあって、自由主義国の砦としての位置が重宝されていたし、飛行機の航続距離の限界もあったので、中継基地としても繁栄したのですが、ソビエト連邦は崩壊し、中国も資本主義経済を取り入れるようになったので、かつての位置の重要さは相対的に低下してしまいました。
 また、航空機も航続距離が延びて、アメリカやヨーロッパから中国などに直行できるようになりました。
 そして1970年代から80年代までは工業国家として世界第二の大国になったのですが、情報社会に向けて技術革新が進んで行く中で、携帯電話の普及率は世界で28位、コンピュータの普及も19位、インターネットが10位と出遅れており、船の技術革新に対応できなかったベネチアを想わせる状態です。

 さらに驚くべき類似点があります。
 生活が安定して来ると、冒険をしないようになり、ベネチアでは過去の蓄積だけで生活しようという人が増えてきて、人生の最大の冒険である結婚に踏み切る男子が急速に減って行ったのです。
 適齢期の貴族の男子の未婚率は、16世紀で50%、17世紀で60%、18世紀には66%になり、しかも結婚した夫婦も40%は子供を作らなかったそうです。
 もうお分かりかと思いますが、日本の現状に瓜二つです。
 まず、ビジネスの冒険である起業家魂があるかというアンケート調査では、日本は調査した51カ国で下から2番目です。
 そして社会経済生産性本部が平成17年に新入社員におこなった調査で、仕事と生活のどちらが大事かと聞いたところ、仕事は22%で、生活が78%でした。完全にベネチア化が進んでいると思います。
 そして未婚率は25-29歳の男子で、1970年には46%でしたが、2000年には70%になり、末期のベネチア以上ですし、女子も19%から54%に上がっています。
 少子化は育児制度や支援制度の問題ではなく、豊かな社会の中に原因があるのかも知れません。ベネチアを他山の石として対策を考えないと、日本の将来も危ういと思います。





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