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論文

 インターネットの普及によって、地方都市でも最先端のビジネスが可能になるとか、資本金がわずかな小さな会社でも巨大なビジネスが出来るなど、既存の社会の秩序が崩れていく傾向にあります。
 そこで今日はインターネットが作り出す新しいマーケット構造についてご紹介したいと思います。

 社会学や経済学の分野で使われる「ジップの法則」といわれる経験則があります。
 これは1930年代に活躍したアメリカの言語学者ジョージ・キングスレイ・ジップという人が、ジェームズ・ジョイスの「ユリシーズ」に出て来る約26万語の単語と、新聞記事に出て来る約4万4000の単語の出現回数を調べたところ、もっとも登場する「the」が全体の10%、2番目の「of」が5%、3番目の「and」が3・3%、4番目の「to」が2・5%になりました。
 そこで気が付いたのが、何番目という数字で10を割ると、その出現頻度のパーセントになるということです。例えば、「of」は2番目だから10÷2で5%、「to」は4番目ですから10÷4で2・5%というわけです。
 一般的に言えば、n番目にたくさん出て来る単語の出現頻度はn分の1%になるということです。
 何となく偶然のようですが、意外にも色々な分野に当てはまり、古典的な例では、ある国の都市の人口の順番と、その人口の占める比率が有名ですし、最近の例ではウェブサイトへのアクセスの順番と、その回数の占める比率が当てはまるようです。
 この法則をグラフにすると、急速に右肩下がりになる双曲線になります。

 これは経済学の分野では、イタリアの経済学者ヴィルフレド・フェデリコ・ダマソ・パレートが1896年に発表した「パレートの法則」として知られています。
 彼は19世紀のイギリスの所得の分布を調べ、上位の人々から順番に、その所得金額を並べてグラフにするとジップの法則と同じように双曲線になるという理論を発表しました。
 そのとき、上位20%の人々の所得が全体の80%を占めていたため、そこからさらに「20対80の法則」が登場しました。
 これはなかなか応用範囲の広い法則で、会社では20%の社員が80%の売上を挙げている、社会では上位20%の納税者が税金の80%を納めている、製品の故障は上位20%の原因が故障全体の80%を占める、働く時間の20%で仕事の80%を処理しているなど、色々と当てはまる分野があるのです。
 とりわけ商品の販売では売上の上位20%の商品で、売上全体の80%を稼ぐという法則があるとされ、したがって、すべてのお客様に均等なサービスをするよりは、上位20%のお得意様に重点的にサービスをしたほうがいいというのがマーケティング戦略でした。

 ところがインターネットの普及によって、この構造に異変が発生したのです。
 実例でご紹介するのが分かりやすいと思います。アメリカのインターネット書店アマゾンは230万種類の本を扱っている世界最大の書店です。
 ここで「20対80の法則」をアマゾンに当てはめれば、230万種類の20%にあたる、売上上位から46万種類の本で80%の売上になるはずです。
 ところが実際には、13万番目以下のそれぞれは売上の少ない本で、全体の60%近い売上になっているのです。
 13万種類という数字を選んだのは、実際に町の中に書店を開いている世界最大の「バーンズ・アンド・ノーブル」が店内に置いている本の点数が13万種類だからです。
 同様にアップル・コンピュータは「iTMS」で100万曲の音楽をインターネット経由で販売していますが、ダウンロードされていない曲は1曲もないそうです。

 このような現象に気付いたアメリカのインターネット関係の有名な雑誌「ワイヤード」の編集長クリス・アンダーソンが、2004年に、この現象を「ロングテール現象」と名付けました。
 このようなインターネットで販売される本や音楽の場合、売上の順番に並べて、それぞれの売上高をグラフにすると、上位はパレートの法則のように大きな比率を占めますが、下位のほうになっても売上が急速に減少するのではなく、ダラダラと続いて行き、グラフが背の高い首と長い尻尾をもった首長龍のような形になるからです。
 これはインターネット書店の場合、広大な面積の売場を用意する必要がなく、コンピュータの記憶装置の中に何百万冊の本でも展示できるし、何百万冊もある在庫からも目指す本が簡単に発見できるからです。
 ちなみに、昨年開店した「丸善丸の内本店」の売場面積は1750坪ですが、本の冊数は120万冊程度ですから、種類ではインターネットには歯が立たないというわけです。
 現在、国内のインターネット書店の年間売上は500億円程度で、全体の2%ですが、このロングテール現象によって、本の売上構造が変わるとともに、金額も急増していくと予想されます。





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