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論文

 情報社会が本格化すると紙の消費が減ると言われていましたが、一向に減らないではないかという意見も多くありました。しかし、最近の統計を調べてみると、減り始めたのではないかと思われます。
 日本の印刷用紙の生産は1980年から2000年までの間に2・5倍増えたのですが、2000年と2004年を比べると3%ほど減っているのです。
 新聞用紙も同様で80年から2000年には1・3倍増えたのですが、2000年以後は横這いに近い状態です。
 アメリカやフランスなどでも2000年以後は減っています。もちろん、これだけでは長期的な傾向は明確には分かりませんが、少なくとも僕の身の回りでも、会議の案内や講演などの依頼の文書はほとんど電子メールになっており、紙が減っていることを実感します。ついに紙の時代が変化し始めたのかも知れません。

 しかし、歴史を見ると、媒体の栄枯盛衰は確実に発生しています。中国ではすでに紀元前2世紀に紙を発明し、使用していましたが、中東には8世紀、西洋に伝わるのはさらに後になります。
 そこで古代エジプトを中心とした地域では「パピルス」が使われていましたが、エジプトがパピルスの輸出を禁止したので、ヨーロッパでは羊皮紙(パーチメント)や小牛皮(ベラム)が使われるようになります。修道院などで、この羊皮紙の上に写字修道士、すなわち文字を写す専門の僧侶が鳥の羽ペンで文字を書いていたのですが、作業中は完全に無言で、一種の修行としておこなわれていました。これを製本したものが写本です。
 しかし、ヨーロッパでも紙が生産され、グーテンベルクが印刷技術を発明し、この羊皮紙と写本というシステムが、15世紀頃から消滅していきました。

 この羊皮紙の製法は、生皮を水洗いして一昼夜、水に浸し、次いで2週間程、石灰水に浸し、毛と表皮を削り落とします。それを再度、石灰水に浸してから、枠に張って干し、その間に刃物を使って表面を滑らかにするという面倒な方法です。
 したがって、羊皮紙は同じ重さの金と交換されるほどの価値があったので、不要になった文書は水で洗ってから表面を研磨して再使用や、ときには再々利用していたのです。この再利用された羊皮紙を「パリンプセスト」といいます。

 ところが、インクは皮の内側にも滲み通っていますから、完全に消すことはできず、薄くですが以前の写本の文字が見えるのです。そこで19世紀頃から下に書いてあった文章を解読する作業が細々と始まりました。
 ところが、あるとき、古代ローマのキケロが書いたと伝えられ、後世に完全な写本がなかった「国家論」の欠けていた部分が、バチカン教皇庁の図書館にあった写本の中から発見されたため、この隠された文字を読むことが急速に行われるようになりました。
 ところが最初の頃には、いい方法が無かったので,羊皮紙の表面に酸を塗ってあぶり出しのような方法を始めたのですが、魔法使いの弟子と同じように、塗った酸を中和する方法が分からず、どんどん酸化が進んで、なかには羊皮紙がぼろぼろになってしまうものもあり、この方法はあえなく中止になりました。

 そこで登場してきたのが日本のハイテク技術ということで、以前からバチカンの財宝をデジタル撮影することに協力していた凸版印刷が、羊皮紙の表面の文書の下側にある文字を読み出す技術開発を依頼されました。
 そこでキケロ・プロジェクトの名前で研究を開始し、昨年から、色々な方法を研究して、紫外線を当ててデジタル情報に変換するスキャナーを開発し、今年、その装置を納入したのです。
僕も実物を見せてもらいましたが、写本を傷めないように,本を台の上に置いて、スキャナーを上から当てて読むという簡単な装置ですが、これが古代の秘密を発見する装置かと思うと、なかなか感慨深い装置でした。
 バチカン教皇庁の図書館には歴史的な羊皮紙の写本が200冊程あるそうですが、これをすべてスキャニングしてデジタル情報に変換するだけで16年はかかるし、それを解読するのには、どれだけ時間がかかるか分からないという壮大なプロジェクトです。
 バチカンとパリンプセストに関する共同研究を行う契約はカソリックの総本山との契約ですから大変な価値がありますし、もし、解読された文書が世界で探し求めていたモノということになれば世紀の大発見となるので、夢のあるプロジェクトだと思います。





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