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論文

 今週は著作権の問題について話をさせていただこうと思います。
 現在、文化審議会著作権分科会法制問題小委員会で、著作権の保護期間の延長について議論が始まっています。
 これは日本音楽著作権協会(JASRAC)や日本文芸家協会などからの要望があり、現状では作者の没後50年間保護されている著作権を20年延長して70年にするかどうかの議論です。
 もし延長されるようになった場合の問題は後で触れるとして、著作権という権利が誕生した経緯を振り返ってみたいと思います。

 1886年に通称「ベルヌ条約」、正式には「文学的および美術的著作物の保護に関するベルヌ条約」という国際条約がスイスのベルンで成立しました。その後、何度も改正され、最終的には1971年にパリで改正された「パリ改正条約」が現在の条約になっています。
 しかし、情報技術の発達に合わなくなってきたので、1996年に「著作権に関する世界知的所有権機関条約(WIPO著作権条約)が、ベルヌ条約を基本原則としながら拡大した著作権を保護しており、日本も2000年に加入しています。
 この条約では著作権を、個人の場合は作家などの死後50年、共著などの場合は最後まで生き残った人が亡くなってから50年、そして企業や団体などの場合には、その作品が公表されてから50年としています。
 しかし、最近になって、この期間を延長する傾向にあり、イギリス、フランス、イタリア、ドイツなどは70年になっていますし、日本も映画については2003年に70年間に延長しています。そして現在、小説や音楽について議論されているということです。しかし、もっとも極端な延長を画策してきたのはアメリカです。

 アメリカの著作権は56年間だったのですが、1976年に著作権延長法が成立して75年になりました。ところがさらに1998年になり、現在は亡くなられていますが、カリフォルニア州選出のソニー・ボノ(Sonny Bono)下院議員が中心になって、再度、著作権期間延長法が成立し、個人の場合は死亡してから70年、企業の場合は発表してから95年になりました。これに対しては憲法違反であるという訴訟が起きましたが、2003年1月15日にアメリカの最高裁判所で合憲との判決が出て、成立しました。
 この法律は世間ではミッキーマウス法といわれています。ミッキーマウスは1928年11月28日に封切られた世界最初のトーキーアニメーション「蒸気船ウィリー」で登場したのですが、従来の著作権法では56年の期間しか保護されませんから、84年に権利が切れる予定でした。ところが、76年の著作権延長法のおかげで、2003年まで寿命が延びたのですが、さらにソニー・ボノ法で2023年まで生きながらえることになったのです。
 ミッキーマウスは年をとらない、不平を言わない、病気をしない、食事をしないなど、これくらい優等生の俳優もいないので、ディズニーは何が何でも守るということで、相当のロビーマネーを使って法案成立を後押ししたと言われていますが、その価値は十分あるというわけです。

 この著作権の延長には反対意見も多数あります。
 そもそも特許権や著作権が考えられた背景には、人間の発明や想像は一人の力ではなく、それまでの先人の業績の積み重ねのうえで花開いているのだという認識があります。例えば、コンピュータを考えてみても、真空管や論理数学が発明されていたから可能になっているわけです。
 文学作品でも、シェークスピアの「ロミオとジュリエット」は中世の「ローミアスとジュリエットの悲劇物語」という作品を下敷きにし、さらに「ウェストサイド物語」はシュースピアを原作としているわけです。
 ディズニーの「白雪姫と七人の小人」は1937年の作品ですが、1812年に出版されている「グリム童話集」にある物語ですし、グリムもアイルランドの民話を参考にしています。
 確かに著作権が長く認められれば遺族にとっては経済的に潤うことになりますが、一方では文化の発展を阻害するということにもなりかねません。
 僕個人はたいした著作権もないので気楽に考えていますが、多くの著作がそれほど長くない期間で公共物(パブリックドメイン)になるほうが社会の発展にとっては有益だと思います。





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