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論文

 日本人が魚好きというのは有名ですが、実際、一人一日あたりの魚の消費量(2000年)を調べてみると、アイスランドの248グラムには負けますが、日本は183グラムで2位です。韓国が3位で172グラムと接近していますが、4位のフランスの86グラムや5位のスウェーデンの85グラムなどとは大差です。

 その中でも寿司は日本の特徴ある食事文化で、世界に浸透していますが、今日は、その寿司のネタについて、色々と意外な話をさせていただきたいと思います。

 江戸前寿司という言葉があるように、冷蔵技術や冷凍技術のない時代には、寿司は目の前の海で獲れた魚や貝を食べるための方法でした。ところが、保存技術が進んだために遠方から送られて来たネタを使うようになったのです。
 日本は水産物の輸入大国で、年間、世界の水産物の貿易額が6兆円強ありますが、その4分の1を日本が輸入しています。
 以前、早朝に築地市場を見学に行って驚いたことがあるのですが、「カワハギ」が東南アジアから冷蔵で大量に持ち込まれていました。すべて空輸ですが、かつては釣りに行ってカワハギが引っかかるとがっかりしていたのですが、現在では空輸される高級魚というわけです。
 個別に見ても、「エビ」は自国産が2万7000トンに対して輸入が26万トンと10倍近く、「カニ」は自国産3万8000トンに対し輸入が10万5000トン、「タコ」も4万5000トンに対して7万4000トンと輸入が多い状態です。

 そのような状態ですから、寿司のネタも輸入品が多い状態です。
 寿司のネタについてのアンケートによる人気の順番がありますが、第1の「トロ」はオーストラリアからの輸入、第2の「ウニ」はロシアやチリからの輸入、以下、「アナゴ」は中国や韓国、「イクラ」はアメリカというのが現状で、江戸前ではなく、はるか外国のネタを食べていることが多いのです。
 例えば、人気6位の「サケ」は北欧やチリのものが多いのですが、チリの「サケ」は実は日本人が繁殖させたものです。もともと南半球にはサケは生育していなかったのですが、1970年代に日本の国際協力機構(JICA)がチリの南の方の川で放流をおこない、収穫できるようになったのですが、現在では14億ドル、約1500億円の輸出産品となり、チリの輸出金額の4・5%を占めるまでになっています。

 日本には43000店の寿司屋さんがあるそうですが、そのうち5000店ほどが回転寿司で、急速に増えています。
 アメリカでもカーター大統領時代に国民栄養問題特別委員会が、穀物、魚類、野菜を中心とした日本食が健康にいいという発表をしてから、日本食、そして寿司ブームになり、8000店以上の日本食レストラン、2000店以上の寿司レストランが登場しています。

 そうなってくると世界中で寿司のネタの争奪戦ということになり、様々な工夫が登場してきました。
 僕の大学の同級生がアメリカへ留学したときに、貧乏していたので、魚市場で、当時は油が多すぎるという理由で捨てられていた「トロ」を貰っては、毎晩、トロのにぎり寿司を食べていたという時代もありましたが、今では夢のような話で、トロは高価な商品になりました。そこで回転寿司の「ネギトロ」は赤身のマグロに植物油を混ぜたトロになっています。
 20年以上前に、世界の市場を調査に行ったことがあるのですが、アメリカの魚市場に行ったときに、ヒラメの縁側を大きなハサミで切り取ってドラム缶の中に捨てている光景を目撃し、日本へ輸出すればいいのにと思ったことがあります。ところが、アメリカでも寿司がブームになると、そのようなことは期待できないので、現在、回転寿司のヒラメの縁側は、本物の5分の1程度の値段のロシア産の「カラスカレイ」の縁側を使っているそうです。

 アワビはチリなどから輸入される「ロコガイ」、サザエは「アカニシガイ」、イクラは「マスコ」など代替品が使われています。
 もちろん、美味しければ代替品でも構わないのですが、あまりにも需要が増えていくと、色々な問題を起こします。
 例えば、日本は1年に7万5000トンほどの「タコ」を輸入していますが、その80%は大西洋のカナリア諸島で獲られています。その結果、急速にタコが減っています。
 また、最初に説明したように、エビは国産の10倍も輸入していますが、その主要な産地は東南アジアで、そこではマングローブ林をつぶして養殖池にしています。
 タイでは、1987年に4万5000ヘクタールであったエビの養殖池が91年には7万5000ヘクタールと1・7倍に増える一方で、マングローブ林は61年の37万ヘクタールから93年には17万ヘクタールと45%にまで減っています。
 これがスマトラ沖の地震による津波の被害を増やしたとも言われています。
 美味しいものを食べることは幸せなことですが、その裏側にある問題に気付くことも重要だと思います。





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