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論文

 先日の3月28日に知床半島の流氷の海でカヤックをしてきました。
 これまで6年ほど、毎年3月の終わりの流氷が岸を離れる時期にカヤックをするためにオホーツク海に出かけていたのですが、最初の年は流氷がとっくに沖合に去っており、青海原をひたすら漕ぎ、2年目はまだ海岸にギッシリと氷が押し寄せていたので眺めただけ、3年目も流氷は去っていたので、浅瀬に座礁している氷の間を漕いで疑似体験など、なかなか成功しませんでしたが、今年は完璧で、海岸から1キロメートルほどの沖合に流氷の帯が出来て外洋からの波を防いでくれ、その内側に残っている流氷の隙間を縫って遊んできました。
 天候は一年に何回も無いという無風快晴で、海の上から雪で覆われた知床連山の羅臼岳や硫黄岳を眺めて、このような景観がこの世にあるのかという極楽気分でした。

 しかし、遊んでいただけでは申し訳ありませんので、役に立つ話をさせていただきたいと思います。
 流氷というのは長年、地域の人々にとって邪魔者でした。海が氷で覆われてしまうので漁ができない、氷の上を流れてくる風が冷たい、海岸の施設が氷の力で壊されるなど、何もいいことがないという状態でした。
 ところが流氷の研究が進み、春先の豊漁は流氷のお陰であることが分かってきたのです。流氷の下部にはアイスアルジーといわれる植物プランクトンが棲息しているのですが、氷が溶け始めると太陽光線が当たるので爆発的に繁殖し、それが動物プランクトンの餌になって魚を引き寄せる。また海底に沈んで行くアイスアルジーはウニ、ホヤ、カニなどの餌になるというわけで、オホーツク海の豊かさは流氷のお陰というわけです。また、流氷の期間は漁船が出漁できないので、漁業資源の保護にもなっているのです。
 また、多数の人間が生活している地域で流氷を見ることの出来るのはここだけというわけで、冬に観光客が210万人ほど来訪しています。さらに最近では流氷ウォークも流行しています。水中に落ちても大丈夫なドライスーツを着て氷の上を歩き、わざと海中に落ちて楽しむという趣向です。残念ながら流氷カヤックをするのは我々のグループだけのようですが、流氷の新しい価値を地域が発見しているのだと思います。

 大事なことは地域の邪魔物と思われていたようなものを、新しい視点から見直すことですが、流氷以外にいくつか紹介したいと思います。
 北海道のサロマ湖や青森県の陸奥湾など全国でホタテ貝を養殖している地域は多いのですが、最大の問題は貝殻の処理です。北海道と東北で年間25万トンの貝殻が廃棄されています。これまでは廃棄物として捨てていたのですが、色々な利用法が開発され始めました。
 一例として、粉砕したホタテやカキの貝殻と、石油の脱硫処理で生成される硫黄を混ぜて150度ほどに暖めて加工し、魚礁などにする製品が発売されています。
 また、ホタテ貝の塩分を除去し、350度から400度程で焼成してから粉末にした材料を水に溶いて壁などに塗ると、シックハウス症候群の原因である新築住宅のホルムアルデヒドを吸着したり、便所の臭いを消す効果があるそうです。
 イカスミも注目の廃棄物です。イカスミは8世紀の中国の書物「本草拾遺」に、血液によく心臓の動悸や痛みを和らげる効果があると書かれており、最近では抗腫瘍作用があるという論文も発表されています。
 第一はイカスミスパゲッティやイカスミパンという食品への混入ですが、それより高度な利用もあります。
 第二は液晶としての利用です。イカスミからコレステリック液晶という材料が作られ、温度によって色が変わる温度計などに使われていますが、テレビジョンのモニターに使う研究も行われています。

 エビやカニの殻も現在では有用な原料です。これらにはキチンという材料が含まれており、これをアルカリ加水分解するとキトサンが得られます。これをシート状に加工すると火傷のときに上から被覆する薬剤になるし、人工皮膚や人工血管の材料にする研究もされています。
 またキトサンを飲むとコレステロールが減少するし、中枢神経抑制の効果もあるようです。さらにキトサンを加工するとエイズの病原ウイルスであるHIVに効果もあるそうです。

 私の友人は下水処理場で最後に沈殿して残る汚泥を費用を付けて処理を引き受け、それを微生物を使って肥料に転換し、販売するという仕事をしていましたが、社会には無用のどころか邪魔物を発見して役に立つものに変貌させればビジネスチャンスはいくらでもあると思います。





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