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論文

 今日は「植物プラスチック」という新しい技術について紹介させていただきます。
 日常生活のありとあらゆる部分で使われているプラスチックは普通には原油を精製する段階で生産されるナフサを原料として製造しますが、この原油は化石燃料でいずれは枯渇します。
 とくに2000年以後に生産が頭打ちになった産油国が11カ国にもなり、現在知られている油田を既存の技術で採掘していれば、あと15年もすれば、世界の需要の半分程度しか石油を供給できないという予測さえあります。
 もう一つの問題は、石油を燃やすと二酸化炭素が発生するので、地球温暖化を防止するという観点からも、石油の消費を抑える必要があります。
 そこで登場してきたのが、植物からプラスチック製品を作ろうという技術です。
 石油は鉱物ですから、植物で代替できるというのは不思議に思われるかもしれませんが、石油の組成を調べてみると、わずかに硫黄、窒素、酸素が含まれていますが、82〜87%程度が炭素(C)、11〜15%程度が水素(H)でできている物質です。
 ところが、植物を構成している主要な元素も炭素と水素なので、上手く処理すれば石油の代わりにすることができるのです。
 実際、1970年代の石油危機のときには、ユーカリやアオサンゴという植物から石油に近い成を抽出する研究も熱心に行われていました。
 また、今から100年ほど前にディーゼルエンジンが発明されていますが、そのときの燃料は落花生から作った油で動かしていたそうですから、植物の成分でも石油の代わりは勤まるということです。

 現在、話題になっているのは、トウモロコシの澱粉から作られるプラスチックで、日本では「グリーンプラ」という愛称で呼ばれていますし、「バイオプラスチック」とか「ベジタブルベース・プラスチック」などとも呼ばれています。
 すでに、スーパーマーケットで野菜や魚を入れているトレイはグリーンプラ製品が多いし、観葉植物などを植える鉢も販売されています。
 しかし、最近では工業製品の分野にも登場してきました。例えば、現在のCDやDVDのディスクはポリカーボネイトという石油製品で作られていますが、トウモロコシの澱粉から作ったポリ乳酸で作ったディスクが登場しています。これは射出成型も可能ですし、透明性が高いので新しいDVDの規格であるブルーレイにも対応できます。
 また、2年前から発売されているソニーのウォークマンは、筐体、すなわち機械の外側の容器を植物プラスチックで作っていますし、この3月から富士通が発売するノートブック・パソコンの筐体も材料の半分を植物プラスチックにしています。
 昨年には非接触のICカードも植物プラスチックで作られています。
 このような材料は紫外線が当たると二酸化炭素と水に分解してしまうし、ゴミとして燃やしても簡単に処分できるので、注目されているのです。

 それでは二酸化炭素を減らすという効果はないと思われるかもしれませんが、トウモロコシの澱粉に含まれている炭素は、もともと空中に存在していた二酸化炭素を炭酸同化作用によってトウモロコシの粒などにしたものなので、仮に植物プラスチックの全部が水と二酸化炭素になっても、元の量に戻るだけですから、空中の二酸化炭素を増やすことになりません。
 このような関係を「カーボン・ニュートラル」と言います。

 しかし、トウモロコシをどんどんとプラスチックにしていくと、食糧や飼料が足りなくなってしまうと思われるかもしれませんが、ポリ乳酸でCDやDVDのディスクを1枚作るのに必要なトウモロコシは85粒ほどで、40グラムから50グラムのトウモロコシしか必要としませんし、1本のトウモロコシから10枚のディスクが作れます。
 現在、1年間に世界で生産されているディスクは100億枚程度ですが、それをすべてトウモロコシの澱粉で生産しようとすると、約50万トンのトウモロコシが必要になります。
 しかし、世界のトウモロコシの生産量は6億トンですから、その0・08%だけで十分ということになり、余剰のトウモロコシでまかなうことができます。

 何も問題がないかというと、紫外線などが当たると劣化しますので、耐久性に課題がありますが、最大の欠点は材料が高いということです。現状では石油から作るプラスチックの2倍から4倍です。
 いずれ安くなっていきますし、二酸化炭素を増大させないということを金銭に換算すれば、はるかに安価だと考えることもできます。
 そのような意味で、植物プラスチック、グリーンプラも注目の技術だと思います。





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