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論文

 今年も話題になりそうな最新技術について説明をさせていただこうと思いますが、今年の最初は「光触媒」という技術です。
 触媒という言葉ですが、これは自分は変化しないが、接触した周囲を変化させる役割をする材料です。パーティなどで、その人がいるだけでパーティが賑やかになって会話がはずむのですが、終わってからよくよく思い出してみると、その人は自分のことについてハ何も語しておらず、一体どういう人物なのだというタイプがいますが、これが触媒です。
 光触媒というのは光が当たったときだけ、触媒の役割を果たすという物質で、パーティで言えば、関係ある話題になると熱心に会話を弾ませるのですが、話題が逸れると途端に沈黙してしまうタイプということになります。

 今日の話題の「光触媒」は二酸化チタンという材料です。これは白色の無臭で人間には無害な物質で、化粧品やチューインガムなどに混ぜられていますが、1972年に東京大学の本多教授(当時助教授)と藤島教授(当時講師)がイギリスの『ネーチャー』という有名な科学雑誌に、この材料の珍しい性質を発表した論文をきっかけにして有名になった現象で「ホンダ・フジシマ効果」といわれています。
 これは水の中に二酸化チタンの電極と白金の電極を入れて、そこへ紫外線を当てると水が電気分解されて、二酸化チタンの電極からは酸素、白金の電極からは水素が発生するという現象でした。
 これで朝日新聞などは1974年元旦の新聞に一面に「太陽で夢の燃料」という記事まで発表したのですが、残念なことに分解能力が小さくて、水を分解するのには実用的ではないということで、これは立ち消えになりました。
 そこで藤島教授が何かいい利用方法がないかと研究して発見されたのが、二酸化チタンをタイルなどの表面に塗っておくと、そこに付着した有機物などを分解してしまうという性質です。

 例えば、表面に二酸化チタンを吹きつけて焼きこんだタイルを手術室の内側の壁に貼っておきます。そうすると室内の空中に浮遊していた細菌などがタイルに付着しますが、その細菌を殺してしまう効果があります。しかも重要なことは、大腸菌などは死滅するとエンドトキシンという毒素を発生するので、そのままにしておくと問題になるのですが、光触媒作用は細菌の死骸も分解して二酸化炭素と水に分解してしまうので、大変に衛生的に部屋を保つことができるのです。
 同じような効果を利用して脱臭することも可能です。トイレが臭うのは、小便に含まれている尿素が雑菌によって分解されてアンモニアになり、それが臭いの原因ですが、便器に二酸化チタンを塗っておくと光触媒作用で雑菌を殺してしまうので、アンモニアが発生しなくなり、臭わないというわけです。
 また藤島教授が「セルフクリーニング効果」と名付けられた使い道もあります。この光触媒作用は油などを分解しますので、油が付着するような場所に塗っておくと、しばらくしてから水で流すだけで汚れが落ちるということにもなります。
 実際、油で汚れた台所の換気扇に二酸化チタンの水溶液を吹きかけ、紫外線を8時間ほど当てておいたところ、きれいに汚れが落ちたそうです。
 そこで現在、高速道路の照明灯のガラスのカバーに塗布されていますが、雨が降ったときに汚れがきれいに落ちるそうですし、一般道路の舗装の上に塗っておくと路面の汚れも落ちてしまうそうです。
 まだまだあります。二酸化チタンは超親水性という性質があり、水を弾かないのです。分かりやすくいえば水玉ができないのです。そこで、建物の外壁に二酸化チタンを塗り、上部から水を流しておくと、壁面全体に水の薄い膜ができ、打ち水をしたように建物を冷やす効果があります。ある建物で実験をしたところ、室温が5℃下がり、冷房の電気代が10%以上節約できたそうです。

 課題もあります。最大の欠点は、月の光が当たらないと変身しない狼男のように、紫外線が当たらないと能力を発揮できないので、暗い場所では使えないことと、現状では二酸化チタンの値段が高いという問題があります。
 しかし、高速道路の照明灯の場合には、清掃を大幅に省略できるので、清掃のために斜線制限をして渋滞になったり、清掃の人が危険を冒す必要がなくなり、結果として清掃費用が節約できるので、十分に採算は取れます。
 今年あたりから「光触媒」がブレークするのではないかと思います。





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