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論文

 今週は最初から個人的な趣味の話で申し訳ありませんが、一番好きな音楽は「オリノコフロー」や「ウォーターマーク」などエンヤの曲で、映画では1934年に制作されたロバート・フラハティ監督のイギリス映画「マン・オブ・アラン」で、好きな酒は「ブッシュミルズ」なのですが、共通することは、すべてアイルランドに関係があるということです。
 私だけではなく日本にはアイルランドに関心をもつ人が多いのですが、それは、明治以来の近代日本にアイルランドに関係する文化が色々と取り入れられてきたことが影響していると思います。
 明治の初期に日本の小学校で教える唱歌を邦楽にするか洋楽にするかの論争があったのですが、結論は洋楽ということになりました。ただし、日本人の感覚に馴染みのある音楽がいいということで、アイルランドやスコットランドの民謡がいくつか選ばれました。「庭の千草」や「ロンドンデリー」はアイルランドの民謡ですし、「蛍の光」や「故郷の空」はスコットランド民謡で、事情を知らないと日本の音楽と錯覚するほど日本人の心に響く音楽です。
 最近ではパナソニックのVIERAという薄型テレビジョンのコマーシャルで、女優の小雪が登場するものがありますが、音楽はエンヤが作曲した「菫草(すみれぐさ)」という日本語のオリジナル曲で話題になっています。あれは芭蕉の「野ざらし紀行」を題材にしているそうで、やはり共通する感性があるのではないかと思います。
 小泉八雲もアイルランド人で菅、今年は小泉八雲、すなわちラフカディオ・ハーンの没後100年目になり、命日の9月26日には小泉八雲が滞在した松江で記念式典が開かれますし、熊本近代文学館や姫路文学館で特別展示などが行われています。

 そこで今日はアイルランドの文化と日本の文化について考えてみたいと思いますが、様々な共通点があります。
 まず両方とも島国ですから、周囲を海に囲まれており、漁業が盛んな国だということです。映画の「マン・オブ・アラン」も荒海で苦闘する漁民の姿を描いたものですが、僕がシーカヤックで訪れる海を思い出させます。
 アイルランドの文化のことをケルト文化といいます。このケルト文化を創ったケルト民族はガリア民族とかゴール民族とも呼ばれ、60ほどの部族が紀元前600年頃からアルプス以北のヨーロッパ一帯に生活していたようですが、ゲール語とかガリア語といわれる共通の言葉を持って繁栄していました。
 そのケルト文化の最大の特徴は、森や湖や山や川などの自然にそれぞれ神が宿っていると考える多神教だったことです。正確な神様の数は分かりませんが、数百の神々が存在していたという説もあります。日本のヤオヨロズ、すなわち800万の神々には及びませんが、現在では数少ない多神教の伝統がアイルランドに残っているということになります。
 ユーラシア大陸の両端にある島国で、多神教の伝統が維持されているのは興味深いことです。

 シーザーの書いた『ガリア戦記』という書物が残っていますが、これはローマ人がガリア人を討伐していく戦争を記録したものです。このローマ人は、シーザー以後も領土を拡大していき、ガリア人は北のほうに追い詰められ、かろうじてアイルランド島やスコットランドに生き残ったのです。
 そして、そのローマ帝国が392年にテオドシウス帝によってキリスト教を国教としたために、多神教も衰退しケルト文化の一部に残っているというのが現状です。
 しかし、最近、宮崎駿監督の「もののけ姫」「千と千尋の神隠し」「ハウルの動く城」など、多神教の文化を背景にしたアニメーション映画がアメリカやヨーロッパで高く評価されているように、ケルト文化も脚光を浴びるようになり始めました。

 エンヤやU2の音楽、リバーダンスなどケルト文化を背景にした芸術に人気があるのも、その影響だと思います。
 おそらく、環境の危機に対して、人間を自然の一部として考える多神教の思想が必要とされているからではないかと思います。
 このケルト文化研究の日本の第一人者は立命館大学の鶴岡真弓教授ですが、実は私が昨年大学を辞めたときの退官記念事業で鶴岡教授と対談をさせていただき、その内容を本にした『ヤオヨロズ、日本の潜在力』が先週、講談社から出版されましたので、リスナーの皆様に30冊を差し上げたいと思います。これには前の三重県知事であった北川正恭さんや、NTTドコモの社長であった立川敬二さんとの対談も含まれており、日本の文化が21世紀の世界にとって重要だということが話されていますので、ご関心のある皆様のお葉書きをお待ちしております。





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