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論文

 昨年、ICタグという新しい集積回路によってユビキタス社会が到来するという話をさせていただきましたが、最近、目覚しい発展をしていますので、ユビキタス社会の最新動向をご紹介させていただきたいと思います。
 ユビキタスというのはラテン語が元になっている英語ですが、どこにでもあるという意味で、情報通信が「いつでも・どこでも」利用できるという社会を実現しようということです。
 その中核となるのがICタグで、集積回路にアンテナを一体として組み込み、外部から電波を当てると、その集積回路に書き込まれている情報を読み出すことができるという技術です。

 それでは「ユビキタス社会」はどのような役割を果たすかということを考えるために、ここ10数年の情報通信の技術の発展を振り返ってみると、5年ごとにキャッチフレーズが付けられていることが分かります。
 まず1990年代前半は「マルチメディア社会」でした。これは一台の端末装置で色々な情報通信や情報処理ができるということを目指したもので、コンピュータが一台あれば、文字も図形も音声も扱うことができるという時代です。
 90年代後半になると「インターネット社会」になり、そのような端末をすべて一つのネットワークで接続することを目指すようになり、実際、現在では5億以上の端末装置が相互に接続されています。
 21世紀になると「ブロードバンド社会」が登場し、そのインターネットのネットワークを一気に太い線にするということになり、ADSLとか光ファイバーを全国に張り巡らすという時代になりました。
 そして5年ほど経って登場したのが「ユビキタス社会」で、いつでもどこでも通信ができる社会を目指そうということになったのです。

 このようにご説明すると、情報通信社会が次第に発展していることかと思われるかもしれませんが、ユビキタス社会は、それ以前とは大きな違いがあります。
 その違いは何かを理解していただくヒントになる面白い話しを紹介したいと思います。
 1995年頃から携帯電話が毎年1000万台ずつ増えるという爆発的時代になったのですが、私がNTTドコモの立川敬二社長に、このような勢いで普及していくと、あと数年で日本人すべてに行き渡ってしまって、需要がなくなってしまうのではないですかとご質問したところ、いや大丈夫、人間に行き渡ったら、その次にはイヌやネコに携帯電話を普及させ、さらにその次にはモノに普及させるから、需要は無限にあるという説明でした。
 そのときは笑い話のように思ったのですが、ユビキタス技術によってモノに情報端末が付けられる時代が実現してきたのです。つまり、これまでの通信技術は人間と人間が情報を交換するための技術だったのですが、ユビキタス技術は人間とモノが情報交換する技術なのです。
 具体的には、スーパーマーケットで売られている大根にICタグを付け、そのICタグに携帯端末を近づけると、この大根は何県の何処でだれが生産して、何月何日に出荷されたもので、有機農法で栽培されていますとか、このように料理すると美味しく食べることができますというような情報が画面に表示されるということになり、買う人は十分な情報を知って買うことができるようになります。
 また、自動車の部品の一つ一つにICタグを付けて、この部品の素材は何で、どこどこ工場で何月何日に生産されたものだという情報を記録しておくと、故障が起こったときに部品を取り寄せることが簡単にできるし、リサイクルするときにも一緒に破砕してもいいかどうかの判断も自動的にできるようになります。

 さらに新しい応用が始まりだしました。人間とモノの通信だけではなく、人間と場所が通信できるようにしようという考え方です。例えば歩道などに黄色のプレートを貼り付けて目の不自由な方が交差点などを判断できるようにしていますが、そのプレートにICタグを組み込んでおき、電波を受信できる白い杖を持って歩くと、「あと3メートルで交差点です」とか「右へ曲がると駅があります」というような案内を音声ですることができます。もちろん、これは一般の人々の道案内にも利用できますから、大変便利な社会が実現することになります。
 このような社会を実現しようということで、今年から国土交通省が「自律的移動支援プロジェクト」を開始しました。道路だけではなく、電信柱や建物の玄関や自動販売機など、ありとあらゆるモノや場所に情報を書き込んだICタグを貼り付けるというプロジェクトで、これによって本格的なユビキタス社会が実現することになりますし、立川社長の予言されたように、あらゆるモノに携帯電話を付けるということにもなったわけです。
 この「自律的移動支援プロジェクト」の実験が今月末に神戸市の三宮周辺で行われますので、関心のある方は見学をしていただいたらいいと思います。





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