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論文

 本日4月1日から、全国の国立大学が独立行政法人に移行しましたので、これによって日本の大学教育がどのように変化するかを考えてみたいと思います。
 まず独立行政法人になると、どのような変化があるかということですが、これまでは国立大学は国の行政組織の一部であったものが、それぞれ独立した法人になり、自立した運営ができるようになります。
 その結果、教員の給料や授業料なども、一定範囲内で自由に決めることができるようになります。それでは業績を上げれば給料が上がるかというと、昨日、出会った国立大学の教授はほぼ確実に下がるのではないかと悲観的でした。そういう意味で私は早目に大学を辞任して正解ではなかったかと思っています(笑)。
 しかし、公務員ではなくなりますので、活動の自由度が増し、民間企業の顧問になって謝礼をもらうことも可能になりますので、早まったかなと後悔もしています。

 今回の改革の重要な目的は、国立大学にも民間企業の発想を導入するようにということで、大学の経営方針を決定する「役員会」と、それを審議する「経営協議会」を構成し、そのメンバーは学外からも人選することが義務付けられています。
 最近、発表された外部からの役員や経営協議会の委員には、資生堂名誉会長の福原義春さんが東京藝術大学の役員、京セラ名誉会長の稲盛和夫さんが鹿児島大学の経営協議会委員、また、東北大学の経営協議会の委員には宮城県知事の浅野史朗さん、前文部科学大臣の遠山敦子さんなど有名人が並んでいます。
 また、第三者機関である大学評価・学位授与機構による業績評価も義務付けられ、評価が低いと運営交付金という国からの補助金が減額されるという厳しいことにもなります。

 このような改革によりそれで大学は良くなるかに関心があると思いますが、スイスの民間研究機関が毎年発表している「世界競争力年鑑」のなかに、「それぞれの国の大学は経済競争時代に合った教育をしているか?」という項目がありますが、日本は59カ国中、なんと59位ですから、まず、社会の要請に会った教育をしてもらうことが期待されます。
 また、大学は「象牙の塔」とも言われて、社会と没交渉が立派だと思われてきましたが、これからは地域に役立つ研究や教育をして、地域社会から支持されないと寄付金なども集まらず、そういう点では文部科学省の方針に沿った一律の教育だけではなく、独自の特徴を発揮する研究や教育も期待されます。

 一方で国の支配が強まるという危惧もあります。自立した法人といっても、文部科学大臣が発表する中期目標に沿って、各法人は五カ年計画を作成して、それに大臣の許可を得ないといけない仕組みなので、それによって管理される怖れはあります。
 運営交付金も評価によって増減するので、経済的にも管理されかねないとも言われています。大学は社会に批判精神を持って臨むことも重要な役割なので、ここは努力してほしいと思います。
 経営効率を追求すると、基礎研究のように利益が期待できない研究分野が軽んじられるという心配があります。
 大企業の基礎研究でも5年で成果があがらない研究には予算が出ないといわれていますが、大学も同じようになると、基礎研究は迫害されそうです。
 昭和48−49年のオイルショックのとき、石炭液化が必要だということになりました。戦前には多数の研究者がいたのですが、当時、ほとんど研究者はいなくなっており、ある国立大学でコツコトと研究していた教授が一躍脚光を浴びたことがありました。
 このように研究は、いつ役に立つか分からない側面があるので、単純に利益がでるかでないかで判断するのは危険なのです。

 また、健全経営を重視すると、赤字にならないように授業料などを値上げしていくことになりますが、そうすると金持ちしか一流大学に入学できないという教育機会の不平等も心配されます。
 そして、今回の独立行政法人への移行に伴って、99校あった国立大学と15機関あった大学共同利用機関が、それぞれ89校と4機関に統合されていますが、経営本位で統合などを進めていくと、人口の少ない地方では大学が消えてしまうという不平等も心配されます。

 今回の大学改革は明治時代に東京帝国大学を筆頭に国が大学を設立した改革、戦後になって、駅弁大学とからかわれるほど多数の国立大学を地方に設立して、大学の門戸を開放した改革に次ぐ、第三の大学改革といわれています。
 明治の改革では、大学は多数の優秀な人材を社会に輩出して日本が近代国家として発展する役割を果たしましたし、昭和の改革では、多数の国民が高等教育を受けたことによって経済大国となることができました。
 このように高等教育は100年単位で社会の発展を成し遂げる人材を育成する重要な手段ですから、国も財政改革の一手段として大学改革を考えないで、長期の視点で検討してほしいと思います。





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