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論文

 先週の3月7日に、トヨタ自動車がトランペットを吹くロボット「トヨタ・パートナーロボット」を発表して話題になりましたが、2000年には本田技研工業が歩くロボット「ASIMO」を発表、昨年はソニーが2本の足で走るロボット「QRIO」を発表、また、東京大学も自分で起き上がることのできるロボットを開発し、ここ数年、新しいロボットが話題になっています。
 このロボットの技術については、日本が世界の最先端を進んでいるのですが、なぜ日本が最先端かの秘密をお話したいと思います。

 第一に、世界でロボットをもっとも利用している国が日本なのです。2002年の統計で、工場などで使われているロボットが世界には77万台ありますが、その45%に相当する35万台が日本にあり、アメリカは10万台、ヨーロッパ全体でも24万台しか利用していません。
 最近でこそ、アメリカやヨーロッパでも増加してきましたが、15年前の1990年ですと、世界で使われていた45万台のロボットのうち60%の27万台が日本にあり、アメリカには3万台、ヨーロッパには7万台しかありませんでした。

 第二に、ソニーが発売した犬のロボットの「AIBO」や、今回、トヨタ自動車が発表した楽器を演奏するロボットの「トヨタ・パートナーロボット」のような、人間の友達となるようなロボットを開発しているのは日本だけといってもいいほどだということです。 
 アメリカやヨーロッパでは、工場の仕事をするとか、部屋の掃除をするというロボットは開発していますが、人間の友達となるようなロボットの開発には熱心でないのです。
 この背景にはロボットの起源があります。ロボットが歴史に登場するのは、ホメロスが書いた『イリアス』に、へパイトスという神様が「オートマタ」という身の回りの世話をするロボットや、「オートマトン」という鎧を作るロボットなどが登場するのが最初といわれていますが、ロボットという語源になっているのは、1920年にチェコの作家カレル・チャペクが書いた「ロッサム万能ロボット製造会社」という戯曲です。
 このロボットという言葉はチェコの言葉で強制労働を意味する「ROBOTA」や労働者を意味する「ROBOTONIC」から合成されたものですが、そもそも人間がやりたくない仕事を代わりにさせるという発想から考え出されたものです。
 この戯曲に登場するロボットは金属製のロボットではなく、人間の姿をしたようなロボットですが、人間の労働をロボットが次々と肩代わりして、人間は仕事をしなくてもいいという目的で作られたものです。
 ところが、人間が人間を創ったということに神様が天罰を下し、人間は生殖能力を失い、ロボットが反抗して社会が混乱するということになっています。ここには、生命を創造できるのは神様だけであるというキリスト教の考えが明確に反映しています。

 その結果、キリスト教を背景にした世界では、どうもロボット開発したり、社会に導入するのに抵抗があるのではないかと思います。そのためにロボットの利用に日本ほど熱心ではないし、研究開発も労働を代行する程度のロボットならまだしも、犬に近いロボットとか、人間に近いロボットとなると、日本人には想像のできない精神の葛藤があるようです。
 ところが日本人は森羅万象すべてに魂があると考えているので、機械でできたロボットも友達のように感じ、ロボットを開発したり導入したりすることに抵抗が少ないようです。

 そのいい例が、工場ではロボットに「ひかるチャン」とか「あゆみチャン」などの名前をつけて、自分たちの子供のように可愛がって修理したりしていますし、犬のロボットも本物の犬のように扱う傾向があります。
 これは心臓移植と人工心臓の関係にも当てはまります。日本では心臓移植をはじめとして臓器移植は欧米ほど普及していませんし、そもそも臓器を提供する人も少ないのが実情です。それは他人の魂が自分の身体に入ってきてしまうという恐怖心が奥底にあるのではないかと思います。
 ところが、キリスト教徒は他人の臓器も神様が創ったものだから抵抗がないのですが、その一方で、人工心臓は人間が創ったモノで、それを自分の身体のなかに埋め込むことには抵抗があるというわけです。
 ですから、人工心臓の開発も日本が最初に本格的に取り組み、技術も日本が先頭を進んでいます。

 この科学万能の時代にも、その背後には研究や開発する人の宗教心などが反映しているということを考えると、科学技術も面白く理解できるのではないかと思います。





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