TOPページへ論文ページへ
論文

 先週、栃木県に住んでいる17歳のブラジル国籍の少年が、京都大学付属病院のサーバーに侵入して、病院のホームページを改竄したなどの疑いで逮捕されるという事件がありました。
 新聞などのマスメディアは、この少年を「ハッカー」と呼んでいますが、専門家は、このような少年を「ハッカー」と呼ぶことに不快感を持っています。
 理由は「ハッカー」という言葉の元になっている「ハック」という言葉には、ジャングルなどを切り開いて突き進むという意味があり、1960年代にコンピュータが実用になり始めた頃、高度な能力をもって技術を開発していたコンピュータ技術者を、仲間が「ハッカー」と尊敬して呼んでいたのがそもそもだからです。

 しかし、世の中には高度な技術を持っていても、それを悪用する人も居て、そのような人は「クラッカー」、つまり破壊する人とか、こじ開ける人と呼ばれていたのですが、次第に「ハッカー」とも呼ばれ曖昧になってしまったのです。
 本物の「ハッカー」には伝説的な技術者も多数いますが、例えば、私が学生時代にコンピュータのプログラムを書いていた頃に、日本のコンピュータメーカーに居たプログラマーは、1週間ほどで仕上げる必要のあるプログラムを書くのに、5日目までは何もしないで、ノンビリとしていたのですが、締切りまで、あと数時間というときになって、手紙でも書くようにスラスラと数百行のプログラムを書き始め、それをパンチカードにして機械に通したら、そのまま完成ということになってしまい、驚いた経験があります。

 マイクロソフトの創立者のビル・ゲーツも若い頃はハッカーで、触ったことのないコンピュータの仕様だけを知って、そのコンピュータ用のベーシックという言葉のコンパイラーをプログラムし、友達が、そのプログラムをパンチした紙テープを持っていって機械にかけたら、エラーが出たので、電話でビル・ゲーツに相談したら、1箇所直してくれということだったので、そのように修正したら正しく動いたという話もあります。
 この種類の人には概して変人が多いのですが、その一人がゲアリー・キンドールという人です。この人は「CP/M」というオペレーティング・システムを開発した天才プログラマーですが、IBMがその「CP/M」を自社のパーソナル・コンピュータのOSに採用したいということで、はるばる訪ねて来ました。
 ところがそのとき、キンドールは買ったばかりの自家用飛行機を操縦して楽しんでいた最中でした。地上から無線で連絡したところ、いま楽しんでいるから着陸したくないので、待ってもらえと言って何時間も放って置いたので、IBMの社員が帰ってしまったという伝説があります。
 もし、そのときキンドールがIBMの社員に会って、商談を進めていれば、ウィンドウズではなく、CP/Mが世界の標準OSになっていたかもしれません。

 小説の登場人物でもそうですが、悪人にも魅力のある人間はいるように、「クラッカー」といわれる人々にも面白い人々がいます。
 アメリカ人が朝食に食べるシリアルに「キャプテン・クランチ」という名前の商品があるのですが、それに笛がおまけとして付いていました。その笛が2600ヘルツの音をだすのですが、それは丁度、電話の信号に使われているのと同じ周波数でした。ジョン・ドレーパーというクラッカーの元祖ともされている人は、その笛を巧みに吹いて、長距離電話でも国際電話でも自由にかけることができる能力があり、深夜にバチカンのローマ法王の寝室に電話をかけて驚かせたというような伝説もあります。

 もっとも有名なクラッカーはケビン・ミトニックという人で、1億円以上の価値のあるデータを企業のコンピュータから盗み出したり、大量のクレジットカードの番号と暗証番号を盗み出し、逮捕されたときには、その使っていたコンピュータに2万件以上のクレジットカードの情報が記録されており、すべて使用可能な情報だったといわれています。
 本人は否定していますが、北米航空宇宙防衛本部(NORAD)のコンピュータにも侵入したと信じられており、この情報をもとにして「ウォーゲーム」という映画が制作されました。
 FBIが本人の顔写真入の「最重要指名手配」のポスターを作った最初のクラッカーとしても名前を残しています。

 ハッカーもクラッカーも能力があるということでは共通していますが、出刃包丁は「ドス」にもなるが「メス」にもなるという名言のように、ぜひその能力を「メス」として使ってほしいと思います。
 ちなみにハッカーのなかでも、さらに尊敬をされる人は「ウィザード(魔法使い)」とか「デミゴッド(半神)」と呼ばれますが、そちらを目指してほしいと思います。





designed by BIT RANCH / DEGITAL HOLLYWOOD
produced by Y's STAFF
Copyright(c) Tsukio Yoshio All Rights Reserved.